画面にハッキリと刻印される大人の事情『踊る3』

踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!』鑑賞。

まず、最初に言っておくと、ぼくは『踊る大捜査線』のファンである。大ファンやマニアと言うにはおこがましいが、TVシリーズは何度か通して見ているし、フォーマットが映画に移ったことによってドラマ版よりクオリティは落ちてるにせよ、そこまでの不満もなく、それなりに楽しんで観させてもらった。確かにこれみよがしのパロディや過剰なスロー演出など、ん?ってところも多いが、TVシリーズで受けた恩恵が大きいため、ある程度貯金を散財しても仕方がないかなぁくらいで、やっぱりどちらかというと好きという感情の方に天秤が傾いてしまうのは事実である。

まぁ、映画ファンからぶっ叩かれてるシリーズではあるが、どちらかというと、ぼくは擁護派であるということだけ前フリさせていただきたい。実際、これよりもダメな映画は間違いなくたくさんあるわけだし。

んで『踊る3』

ファック!ケツ喰らえ!!

そもそも映画そのものを語る前になんですか!この大人の事情にまみれた内容は!ここまでハッキリと刻印されてる映画も珍しいですよ!全員の携帯がdocomoとか!青島と室井がまったく関わらないとか!雪乃の無茶苦茶な扱いとか!確かに噂ではいろいろ聞きますよ、織田裕二柳葉敏郎が仲悪いとか、芸能事務所を勝手に飛び出した水野美紀とか……

でも、それとこれとは別もんだろうがぁ!なんだそのファンを無視してる設定は!

つーか『踊る大捜査線』ってそもそも、そういう上からのなにがしとか、権力とか、癒着とかに対して、揺るぎない信念を持った青島が中指おっ立てるって話なんじゃないのかよ!?青島の信念ってのはそんなもんだったのか!青島ぁぁ!!青島ぁぁ!!

映画のストーリーもなかなかヒドい。まず、基本的に、たいした事がまったく起こってない。

冒頭の引っ越しを重要な事件風に扱うという、スカシ的な演出は同シリーズにおいて楽しい部分であるにしても、そこから起こる事件がそれ以上のスカシで、まったく緩急になってない。

バスジャックが起きたと思ったら起きてない、銀行強盗が来たと思ったらお金取ってない、というところから始まって、それはフリだからいいとしても、最終的にクライマックスが大オチになってないというか、まぁ、ハッキリ言ったら何も起きない。ただワーワーと騒いでいるだけ。

各キャラクターが魅力的な『踊る』だけど、今回は誰一人としてオイシイところがない。しいて言うと冒頭に出て来るアンバランスの山本くらいで、あとは記号として、そこに突っ立ってるだけである。

というか、『踊る』におけるキャラクターの重要なファクターがすべて「○○っぽい」ものにすり替えられてて、今回はカタルシスがまったく生まれない。

例えば、青島が今回はまったく活躍してないんだけど、活躍してるっぽく見せてるんですね。無くなってたコートを見つけて、それを着込む所をスローモーションにしてるんだけど、いやいや!ただコート見つかっただけやん!心情が重なってるとか関係ないやん!


和久さんが名言を書き記したノートが多々登場するため、和久さんが存在してるっぽく見せてはいるんだけど、その和久ノートを持ってる甥っ子、最終的にミスってるやん!


今回も室井さんと青島は絆が深いっぽいんだけど、直接室井さん青島に命令下してないやん!!


一番ぶったまげたのが、青島が杭みたいのを持って、鉄の壁をガーンガーンと、どつくシーンがあるんだけど、ここで過剰な音楽とスロー!キター!


つまり『踊る3』は何も活躍してない人たちが、何も起きてないところで、ものすごく活躍してるように過剰な演出でごまかしてるだけなんですよ!スタイリッシュに見せかけといて、中身がまるでない!

ただ、これで本広監督を責めるのもどうかと思うんですけどね、ハッキリ言えば制限されてることがたくさんあったでしょう。プロデューサーからはあれやるなこれやるな言われ、役者を始めとした現場の連中はブーブー文句を言う、シナリオ的にもやりつくした感が満載で、その中でもって『踊る』らしさを映像から抽出しなければならない……その心中/心情は察して余あるものがある。まぁ、実際ホントにこれよりもヒドい映画はたくさんあるし、かっこいいところもいくつかあったりした。


だからぼくは言いたい。本広克行「正しい事をしたければ偉くなれ」


なんてな。


【追記】そう言えば、この映画の監督だったことを何故かすっかり忘れていた。
SHAOLIN GIRL is DEAD!! - くりごはんが嫌い