もし出会って二回目の女性がコーヒーに携帯を水没させたら『アジャストメント』

『アジャストメント』鑑賞。

大学の元バスケットボール選手で巧みな話術を持つニューヨーク州の若手上院議員候補デヴィッド・ノリスは選挙で当選確実と思われたが、下半身を露出するというスキャンダルが発生し、それが原因で落選してしまう。落選してしまったために、それ用の演説をトイレで練習していたら、たまたま男性用トイレに隠れていたエリースという女性に出会う。彼女との出会いが彼の運命をガラッと変えた――――彼は用意していた演説とまるで違うモノを急に発表。それが好印象となったが、それを黙って見ているわけにはいかない組織がいた……というのがあらすじ。

そのポスターやティーザーからてっきり『ボーン・アイデンティティ』や『グリーン・ゾーン*1』のような映画だとばかり思っていたが、それを逆手にとった内容で、完全にしてやられた。

自分にとって運命的な相手と出会ったことで、自分の決められた運命を打破していくという展開にいい意味で思わずイスからずり落ちそうになったが、それが指し示す通り、この作品は軽いタッチのラブロマンス/ラブコメにごっついSFが組み合わさったようなもので『イーグル・アイ』的な緊迫感のあるサスペンスだと思って観ていると、強烈な肩すかしを喰らうのであった。

ドアを開けると全然違う場所に行くという「どこでもドア」的なガジェットが楽しく、クライマックスはこれを使ってひたすら走って逃げるという、ヒッチコックの巻き込まれ型的なアクションへと展開になっていく。『マトリックス』や『インセプション』の流れを受けついだような企画だが、実のところ、その走って逃げるだけのアクションやラブロマンスの部分も含め、ハリウッドの黄金期の作品群を彷彿とさせたりもした。

――――とかなんとか書いてみたが、なんと映画は最終的に人間の自由意志について深く踏み込んでいく。運命や人生――――そもそも人間という生き物が神の手の中にあるならば、人間が本当に自由になるためには、神の意志に背いて戦わなければならないというアレである――――ところが、それが『ダークナイト』や『時計じかけのオレンジ』のそれのようにお固いわけではなく、映画は実に軽やかなタッチでその問題と対峙する。

映画を観ている途中から、「ありゃりゃ?これはどうも思ってた映画と違うなぁ」と何度か足をくじきそうになったが、結局その運命に背くという行為が「愛こそがすべて」的な「マトリックス」風味全開のオチへと直結しており、それで盛大にずっこけてしまった。そこを許すか許せるかで作品の印象はかなり変わってしまうと思われる。

実際、この作品は「愛する人と一緒になりたいマット・デイモンの行動に右往左往させられる組織のお話」として見ると、非常にドタバタしていて楽しいっちゃ楽しい。その組織はマット・デイモンを偉大な政治家にさせなければならないため、彼と彼女をくっつけさせるわけにはいかない――――って『普通じゃない』かよ!!というか二人がくっついたところで一体どんな影響を及ぼすんだ!?その他に偉大な政治家を作り出すことはできないのか!?だいたい下半身露出するって運命がなければ、とっとと有名になれただろ!あと出会って二回目の女の子にケータイ水没させられたら怒るよ!

――――先にこの映画を観ていた後輩が「これラブロマンスですよ」と言っていて、まさかなとは思ったが、本当にそうだった。似ているという意味では『ツーリスト』と同じブロックに入るような感じ。あと『ナイト&デイ』もそうか。

ということで、もし観ようかなと思ってるんであれば、ディック的ななにがしや緊迫感のあるSFは期待しないで観ることをおすすめしたい、あういぇ。

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なんとこの映画、スリルとサスペンスのSF映画でもなんでもなくて、実はホントに、単なるゆるふわラブロマンスとして展開してゆくんですよ!


シリアスなSFを予想すると少し拍子抜けするかも。ファンタジーコメディぐらいに思ってたほうがいいと思う。 


ホントにその通りだった……ミシェル・ルグランの軽やかなピアノが聞こえてくるような雰囲気。

*1:つってもグリーンゾーン観てないんだけど