もう海賊映画の監督とは言わせない!『ランゴ』

『ランゴ』鑑賞。

ペットとして人間に飼われてきたことで、水槽の中でしか身動きが取れず、ごっこ遊びばかりして過ごした結果。何かを演じ、何かを演出することだけが好きなカメレオンが主人公。彼は名前はおろか、自分が何をすべきなのかというのも分かっておらず、さらに水槽の中で暮らすことになんの不満も感じていなかった。ところがドライブで砂漠を横断中、とあるアクシデントから水槽ごとハイウェイに投げ出されてしまう。哲学的なアルマジロに導かれ、彼はとある町にたどり着くのだが、そこで彼は、自分は西部からやってきたならず者のガンマンだととっさに嘘をついてしまい……というのがあらすじ。

雇われ監督として、大ヒットさせたり、大コケがあったりと、いろんな意味でお株が下がり続けているゴア・ヴァービンスキー会心の一撃。『パイレーツ・オブ・カリビアン』や『リング』のハリウッドリメイクなど、どうでもいい企画ばかり手がけて来た彼にこれだけの作家性があったこと自体驚きで、CGアニメでジャンル映画のオマージュをやるという意味では『カンフーパンダ』にも似ているが、あちらが隠し味的にジャンル愛を散りばめているのに対し、こちらはド直球のストレートに西部劇愛を提示する。

ランゴという名前からジャンゴを連想したわけだが、コルブッチというよりは同じセルジオでもレオーネを彷彿とさせる。特にキャラクターの造形に対してそれが顕著に表れており、出て来るキャラクターはみんな顔が脂にまみれたようなヌメヌメ感で毛も何日も洗ってないような不潔な感じがよく出ている。ストーリー自体は『サボテン・ブラザーズ』や三谷幸喜の『ザ・マジックアワー』よろしく、小さな嘘と勘違いによって普通の人が大騒動に巻き込まれて行くパターンだが、そのサブプロットである「水が枯渇してしまった町での水を巡る話」はどちらかというとペキンパーの『ケーブルホーグのバラード』であり、そのキャラクター造形の妙も相まって映画全体はかなり大人のムードである。時代に取り残されていくある人*1が出て来るあたりも意識的にやっているのではないだろうか。

カメラを旋回させてCGアニメならではの動きを付けるのはお得意だと思うが、それ以上に古き良き時代の映画を意識した画作りが目を引く。町の箱庭感はレオーネの『ウエスタン』っぽく、撮り方は『荒野の用心棒』であり、それを基本にたくさんのオマージュとパロディをすべりこませまくっている。特にジョニー・デップが演じているカメレオンがある車に飛びつくシーンがあるのだが、そこに『ラスベガスをやっつけろ』っぽいハゲとデブが出て来るなど、西部劇以外からも頻繁に行っており、すべてを拾いきれないくらい膨大であった。「ワルキューレの騎行」に「青き美しきドナウ」「ミザルー」をくずしたようなエンディングテーマなどの音楽も含め、そう言った意味でこの作品はヴァービンスキーにとっての『キル・ビル』であるとも言える。

ぶっちゃけ、最初の方で出て来る「パイプ」になんで注目しないんだ!?とか町のルールが後付けで説明されるなど、細かい部分で気になる点もあったが、それを吹き飛ばす楽しさに満ちた快作。ジョニー・デップのテンションの高さ以上に映画のテンションも高かった。これはマジでおすすめ。あういぇ。

*1:というかキャラクター