やはり気になった映画は観に行くべき『ローン・レンジャー』

ローン・レンジャー』鑑賞。新潟は先週上映が終わるはずだったのだが一週間伸びて観ることができた。

ゴア・ヴァービンスキーが監督した『パイレーツ・オブ・カリビアン』は個人的に愚作だと思っていて、特に2と3はゼロ年代のワーストであり、さすがに4は観る気が起きなかった。それ以前の映画を観ても『マウス・ハント』以外は「職人として雇われ仕事を淡々とこなす監督」以上の評価は下せず、企画そのものがおもしろそうだなぁと思わない限りは積極的に観ることのない監督となった。

しかし、ぼくのなかで彼の評価がグンと上がるときが訪れる。それが『ランゴ』という作品だ。

「はいはい。3DCGね。ジョニー・デップと組んでアニメですか今度は」くらいにしか思ってなかったのだが、これがレオーネとペキンパーにオマージュを捧げた彼なりの『キル・ビル』であり、なぜかこれにポランスキーの『チャイナタウン』が加わってくるという映画マニアを刺激してやまない傑作だった。

そんな彼が『パイカリ』のスタッフと一緒に西部劇の古典をリメイクするということで、これは『ランゴ』と違い、マーケティングなども絡んできて、負の要素もあるなと様子を見ていたら、ちらっと『パイカリ』と一緒でつまらんみたいな感想がいくつかあったのでスルーしようと決めた。元々ランタイムが長い映画は苦手ということもあったし………そもそも『パイカリ』嫌いだし………つまり公開してからこんなに時間が経って観たのはそのためである。

じゃあ、なんで観る気になったかというと、ある人が『ローン・レンジャー』ことを「レオーネの『ウエスタン』にオマージュを捧げた作品」と言ったからで、このひとことで「どういう映画なのか?」がつかめたので観にいくことに決めた。ぼくも映画を「おもしろい/おもしろくない」で語ってしまうが、それはあくまで感想であって「そのひとがどう感じたか?」だけにすぎず、「その映画は一体どういう映画なのか?」とはまったく関係ない話なのであった。なんでぼくはそのことに気づけなかったのだろうか。反省することしきりである。やはり気になった映画はどんな評価だろうと観にいくべきなのだ。

さて『ローン・レンジャー』であるが、印象としては『パイカリ』と『ランゴ』を融合させたような作品になっていた。

超クローズアップ、英語圏ではメキシカン・スタンドオフと呼ばれる三すくみシーン、クレーンを使ったエスタブリッシングショットと、基本的にはセルジオ・レオーネのスタイルであり、まんま「ウエスタン」を再現するなど、そのオマージュ具合は顕著。それだけじゃなく『ランゴ』がそうであったように、また今作もヴァービンスキーにとっての『キル・ビル』風味。強盗に入る瞬間にフリーズフレームになるのは『明日に向って撃て』であり、とてつもない数の牛が出てくるのは『赤い河』、さらにジョン・フォード・ポイントが大写しになるなか、馬がカメラと平行して走るなど、出るわ出るわのヴァービンスキー流西部劇史。それを古典中の古典「ローン・レンジャー」のリメイクでやるというところに意義があると思うが、いかんせん西部劇に精通していないので、この辺は監督の音声解説つきBDを待つばかりだ。

とはいえ、凡百のレビューと同じことを書いてしまうが、やっぱり全体的には長いというのは否めない。しかし、この圧倒的な長さは『ウエスタン』をまるごとやってしまおうという監督の気概ではないだろうか。そもそも監督は「映画のテンポが削ぎ落とされたとしても登場人物の心象風景を映像で表現したい」という人であり*1、そのへんは手癖として許容するしかないのかもしれない(これがヴァービンスキータッチというのだろうか)。

あいもかわらずプロダクション・デザインが優れており、とりあえずそれに圧倒されることは間違いないので、言うほど飽きずに目を奪われたまま過ぎ去っていく2時間40分。ギャグも多めでクライマックスの多幸感は今年ベストクラス。もう上映してるところも少ないと思うが(filmarksでは上映のマークがなくなっていた)、『パイカリ』が好きというなら絶対おすすめである。

*1:『ランゴ』の音声解説より