安東弘樹氏が熱く語っていたので『ブラックホーク・ダウン』を久々に観てみました。

7〜8年ぶりくらいに『ブラックホーク・ダウン』をDVDで鑑賞。

ギャラクシー賞を受賞したラジオ番組「タマフル」にて、先週アンディことTBSアナウンサー安東弘樹がこの作品について、銃器のリアリティという観点から熱く語っており、その影響で観たくなってしまった。ブルーレイが出てると勝手に思って、それで見返せばいいやと思ったんだけど、調べたら出てなかった。ちょー意外。せっかくだからブルーレイの画質と音質で再見したかったな。

ソマリア内戦の仲裁役を引き受けたアメリカ軍に待ち受ける地獄の15時間を映像化。

国民の大半がイスラム教徒であるソマリアで内戦が勃発。それによるスラム化で飢餓が発生し、さらに追い打ちをかけるようにアイディード将軍の一派が赤十字からの物資を略奪。30万人の命が奪われてしまった。国連平和維持軍であるアメリカは大統領による「アイディード将軍の側近を拉致せよ」という指令を受け、ヘリコプター19機、装甲車12台、160人の兵士による部隊を組み、モガディシオ市内に向かう。順調に行くかと思われたが、ロケット砲を装備したアイディード軍の民間兵士にブラックホークと呼ばれるヘリコプターを二機撃墜されてしまったことから事態は一変。アイディード軍は市内に降り立ったアメリカ軍をバリケードで封じ込め、一気に民間兵を結集。当初一時間で終わるはずだった任務はベトナム戦争のような壮絶な市街戦になってしまう……

実は『ブラックホーク・ダウン』を観るのはこれで三回目である。

好きな作品ではあるのだが、事あるごとに見返すのは偉大な先駆者である『プライベート・ライアン』であり、あれを近代戦闘に移し替えたフォロワーということで、あまり複数回観ようという気にはならなかった*1

そんな中、アンディの熱い感想に引っ張られるかたちで改めて観たわけだが、なるほど、これはやはりおもしろい。制作されてから10年が経ち、その後も戦争映画の傑作がいくつか出て来たが、改めてこの作品のすごさに気付かされたという感じだ。

安東弘樹は銃器のリアルさという観点からこの作品を三位にあげ、『プライベート・ライアン』を一位にしていたが*2、当時のプレミアを引っ張り出してみると、ベトナム戦争にも参加していた軍事評論家のマイケル・スタンリーはそのリアル度において『ブラックホーク・ダウン』に4点満点中、3.7という高い数値を与えており、これは『プライベート・ライアン』よりも高い*3

そんな軍事評論家も認めるほどのリアルさを持っている素材だが、リドリー・スコットはこれをドライかつ冷徹なタッチでもって「画」ではなく「戦場」そのものに調理していく。その熱さや乾いた風土まで伝わって来るような生々しい映像は10年経った今観てもその年月をまったく感じさせない。スピルバーグがどちらかというと湿った海岸の空気や身体中にまとわりついた海水や砂の不快感を冒頭で表現しているとしたら、リドリー・スコットは砂埃が舞い散り、虫が飛び交うような不快感を表現しているように思える。

リアリティがあるとはいえ、それでも『プライベート・ライアン』はどこか映画的な映像であり、軍事カメラマンが撮ったような写真から画を構築しているようなイメージだが、後追いならではなのか『ブラックホーク・ダウン』にはそういった映像で見せるカタルシスはどこにもない。恐らくそのリアルすぎる映像が何度も見返したいという欲求につながらなかったのかもしれない。

実際この作品は映像どころか、プロット上にも人間ドラマはほとんど出てこず、最初に30分くらい作戦の流れや人物描写があるだけで、あとの2時間はずーっとノンストップで混沌とした戦場を写し続ける。実際に兵士たちは15時間ものあいだ、いつ終わるか分からない戦闘に身を投じていたのだから、この手法は極めて正しい。ホントに事実を映画にしたらこうなったという潔さがあるのだ。

登場人物たちと一緒で観客は「何が起こってるのかよくわからない」状態にさせられ、それでも「確実にやばい方向にいってる」という認識だけで映画を見続けることになる。これがこの作品のすべてである。申し訳程度になぜ兵士たちは戦うのか?という理由について語られるようなシーンがあるが、それ以外に感情移入の余地はない。役者たちの区別もつかない。むしろメインを張るのは爆破で飛び散る砂ぼこりや耳元をつんざく銃撃の音、血みどろの死体とギャグとも思える混乱であり『プライベート・ライアン』のようなヒロイズムすらこの映画には欠けているのだ。それに対しての感想やら趣味嗜好はあるだろうが、実際の戦争というものがそうなのだから仕方がない。

というわけで、戦争映画を変えた『プライベート・ライアン』から、またひとつそれに肩を並べるような映画があったんだなとぼくの中で株が改めて上がった。きっとスピルバーグリドリー・スコットもこれ以上のものは作らないだろう。それくらい完成度も天井近いくらい高い。当時首をひねった方も久しぶりに観てみるとより感動するかもしれない。

ただし、ブルーレイで発売されてないけどね……あういぇ。

参考資料:プレミア日本版2002年5月号「ブラックホーク・ダウン」の男たち

ブラックホーク・ダウン(買っ得THE1800) [DVD]

ブラックホーク・ダウン(買っ得THE1800) [DVD]

*1:ぼくの中でDVDを買って何度も観るの「何度も」は最低でも5回である

*2:ちなみに二位はマイケル・マンの『ヒート』

*3:ちなみに一番点数が高かったのはなんと『ノー・マンズ・ランド』であり、その得点は3.9と満点にほぼ近い数値