普遍的なラブストーリー『へんげ』

『へんげ』をレンタルDVDにて鑑賞。

『へんげ』の特典映像として、公開時に同時上映された短編『大拳銃』が収録されているが、まずこれがなかなかよく出来た作品であった。

借金で首が回らなくなってしまった工場長に組織の人間から「拳銃を作ってほしい」という依頼が来るのだが、いつまでも作り続けなければならないという苦悩から、次第に拳銃作りそのものに取り憑かれ、その鬱屈した怒りがゆっくりと蓄積され、最後に大爆発するというおはなし。

『へんげ』も自主制作作品であるが、いろんなところでいわれているように、塚本晋也監督の『鉄男』を彷彿とさせた。ハッキリ言って『大拳銃』も同監督の『バレット・バレエ』のようだった。この二作に共通しているのはジャンル無視の急展開と圧倒的なパワーである。そして超低予算であるにもかかわらず、映画的なおもしろさがぎっちりつまっており、そのスピリットみたいなものも初期の塚本作品と共通しているところであろうか。

『へんげ』は文字通り、肉体が変化していく男の話である。

この手の作品はホントに低予算とは思えないほどよく出来ているか、予算が少ないことを逆手に取るか、低予算であることがバレバレだが、それを凌駕するアイデアとパワーで押し切るかの3つに分かれると思う。『へんげ』は三番目にあたる。

とにかくこの作品。いわゆる特撮部分にやたらと気合いが入っており、見せ場に関してはスクリーンに栄えるようなとてつもないスペクタクルが待っている。そこだけと言われればまぁそれまでなのだが、実際監督もラストのシーンが突然頭に浮かんで、それを映像化したかったと舞台挨拶で語っているので、そこから物語を広げたということなのだろう。

クライマックスに行き着くまでにホラー、サスペンス、ミステリーといろんなジャンルをすり抜け、おもしろい映画にしてやろうという意志は感じるが、根本的にこの作品は「もし愛する人が○○になってしまったとき、あなたはどうするか?」というラブストーリーである。

この○○が今回は映画ならではの特殊な設定になっているが、これは犯罪者でもがん告知された人でもなんでもあてはまるので、わりとドラマ部分は入っていきやすいのではないだろうか。個人的には『狼男アメリカン』にも通ずるものがあると思う。

というわけで、お涙頂戴の作品が連発されている邦画界に新鮮なワンパンチが来たという感じ。まだ『へんげ』も中編作品なので、次回は2時間弱くらいの劇場作品が観てみたいと素直に思った。おすすめ。

へんげ [DVD]

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