新たな運動/静止リズムの獲得『勝手に逃げろ/人生』
『勝手に逃げろ/人生』鑑賞。
60年代は完璧ともいえるフィルモグラフィでブイブイいわしていたのに、70年代に入ってから政治に傾倒、運動と静止のリズム/身体によるアクションで映画を構築していたのにも関わらず、己の政治観みたいなものを映画の中でグダグダと語り、逆に静止と言葉に頼りすぎて映画自体が停滞してしまい、ハッキリ言って退屈になったゴダールが、79年に「商業映画を再びキチンと撮る!」と宣言して製作した作品。
前々からものすんごく観たかったのだが、DVDは廃盤でAmazonではアホみたいな値段がついており、今はこれが含まれたBOXを買わないと観れないという状態になってしまっている。なんてことだろう。しかし、以前このブログでも紹介したシネフィル後輩くんのおかげでなんとか観ることが出来た。ホントにありがとう。
さて、いきなり書いてしまうが、この作品。今まで観てきたゴダール作品の中で一番好きである。あまりゴダールファンからは良い評価を聞かなかったのだが、それこそ本人が「第二の処女作」と言ってるだけあり、かなり才気に満ちあふれ、若返った一作と言っていいのではないか。
映画は4つのパートから構成されている。
TVディレクターであるポールと恋人のドゥニーズと娼婦のイザベル。彼らをメインに田舎で暮らすドゥニーズがひたすら自転車をこぎつづける「創造界」ドゥニーズが計画したキャスティングがもろくも失敗に終わる「不安」ポールとイザベルが出会う「商売」そしてイザベルと出会ってしまったポールに対し、ドゥニーズが別れを告げ、そのあとに事件が起きる「音楽」――――これらがバラバラの時間軸でバラバラに描かれ、ほぼ同時進行により少しずつ推進していき、最後の最後にひとつにまとまるという野心的な編集がなされている。
なんと言ってもこの作品で目立つのは“ストップモーション”の多用だ。
それまで“ジャンプカット”という発明により、独自の運動/静止リズムでもって、映画のアクションを奏でてきたゴダールが新たなステージに立つために、それを捨てさり“ストップモーション”という新しい武器を会得。さらにそれを“ジャンプカット”以上に使うことにより、これまでのオレは過去のオレと所信表明をする。
空間が歪むほど過剰に使われているが、これが後にウォン・カーウァイをはじめとした映画人に受け継がれるあたり*1、いかに衝撃的だったかが伺える。
それだけじゃなく、引用だらけのセリフに唐突な「死」によって映画がブツっと終わるなど、これまでの商標登録がてんこ盛り。音楽の使い方や不意打ちのエロス。さらに家畜にケツを向けて「これが気持ち良いのよねー」とかいう意味不明なキャラクターなどすべてが刺激的で斬新。84分の間にゴダールのすべてが凝縮された濃厚な超大傑作。
なんとかDVDを再発するか、もしくはBDで出していただきたいものである。
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ちなみに、蓮實重彦によるこの作品の評を読んでたんだけど(ゴダールといえばこの人だと勝手に思っているので)、冒頭近くに映る二頭の馬について延々論じているという奇怪な文章が続いていておもしろい。「この映画の人間について語るのはまだ早い気がする」と、とにかく馬の話ばかりしている。なんじゃこりゃ。
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