王道ディズニープリンセスと通過儀礼『シュガー・ラッシュ』

注・ネタバレあり!これからストーリーのほとんどを語りつくします

シュガー・ラッシュ』を2Dの吹替版で鑑賞。

8ビットに変えられた『蒸気船ウィリー』からコナミコマンドまで飛び出すゲームへのリスペクト/小ネタが楽しく(『メタルギア・ソリッド』の「!」には笑った)、様々なジャンルのゲーム世界を描き分けたプロダクションデザインは完璧で、そのすべてが見事に融合したエンドクレジットは涙が出るくらい感動したが、実はものすんごく古典的なお話である。

映画評論家の町山智浩氏が「ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル」に出演した際、神話と通過儀礼の物語についてこう話していたことがあった。

八百屋さんの息子が「八百屋なんてだせえよ、オレはロッカーになりてえんだよ!」つって家出して、んでロックバンドやるんだけど、うまくいかなくて苦労して、でもふと「八百屋って結構いいよな、みんなに野菜売るっていいと思うんだ、八百屋ってロックだよ!」つって八百屋の王として帰ってくるという話でもいいんですよ

世界中のストーリーは神話/通過儀礼が元になっているのがほとんどなので、八百屋が主人公の話であったとしても、そこに原点があるという分かりやすい例えだ。『ローマの休日』も『スター・ウォーズ』もジャンルは違えど同じテーマが根底にあるということである。

シュガー・ラッシュ』はこの定型にディズニープリンセスを融合させた作品だ。

30年間ゲームの中で悪役をつとめていた男がいきなり悪役なんてイヤだ!オレもチヤホヤされたい!といってその場所から脱出。しかし、いろんな苦労を重ねた結果、やっぱり悪役っていいよな!悪役がいないとゲームはつとまらないよ!と改心して、自分の居場所に帰ってくるというのが『シュガー・ラッシュ』のざっくりとしたあらすじというかテーマである。

そこにヴァネロペという不幸な生い立ちの少女がからんでくる。彼女はヒーローになりたいとダダをこねた男が持っていたメダルを使えば、レースに出れると判断し、そのメダルを盗んで、レースに参加するも、あっさり正体がバレて、マシンは住人に粉々に破壊されるというイジメを受ける。まぁ、なんやかんやあって、ヴァネロペと主人公は似たような境遇にいるということで意気投合。結果、レースに参加するも、そこには巨大な陰謀というか巨大な敵の存在があり、ふたりはその戦いに挑む。さらになんやかんやあって、物語はフィナーレを迎えるのだが、実はこのヴァネロペちゃん。プログラムが書き換えられていて、ゲームの世界ではバグ扱いだったんだけど、ホントはそのゲームの世界のお姫様でしたーめでたしめでたしというのがもうひとつのプロットだ。

しかしこの作品。この様な古典的なストーリーを下敷きにしながらも、ちょっと不可思議な展開が入っている。

30年間悪役という仕事についているのに、なぜかその世界では嫌われ者であるラルフ。それもそのはずで、確かにこのラルフまったく空気が読めず、非常に身勝手な振る舞いをしたと思えば、急に好かれたいなどと言い出し、そこから無茶苦茶な行動をとり、結果、自分のいる世界が崩壊寸前になる。なぜかラルフはそのことを理解しておらず、持って帰ったらヒーローとして迎え入れてもらえると、他のゲームの世界の報奨品であるメダルを追い求めるのだが、ゲームの世界からゲームの世界に移動するだけでも警備員がいちいち止めるくらいデリケートなことなのに(犯罪にはならないらしい)、今度はシュガーラッシュという別な世界にトラブルで不時着。んで、そこにいるヴァネロペはヴァネロペで勝手な行動を起こし、そのメダルを勝手に奪って使い、やはり自分がいるゲームの世界を崩壊させようとする………

あれ?このふたり、もしかして極悪人なんじゃねーの???

さらに物語は複雑化していく。このふたり(正確にはラルフ)が暴走することにより、そのメダルがあったシューティングゲームの世界もあやういと、そのゲームの世界の美人大佐とラルフが住んでる世界のゲームの主人公が手を組み、ラルフを連れ戻そうというもうひとつのグループの視点が入ってくる。んで、このふたり、探しにいく途中で危険な目にあったり、そのおかげでいい感じになったり、結局最後ゴールインして……

むしろ、こっちが主人公でいいんじゃねーの??

――――元々この『シュガー・ラッシュ』はラルフがいた世界の主人公フェリックスくん視点で企画がすすんでいたが、あるときラルフがヒーローになりたいという話はどうでしょうと提案したスタッフによってストーリーが大きく変化したという。故にこんな妙な展開になってしまったそうだ。ちなみにその発言をした男が最終的に『シュガー・ラッシュ』の監督になった(ソースはタマフル)。

というわけで、古典的な話の主人公が悪役であり、それを追いかけるヒーローの視点というなんとも複雑なストーリーである『シュガー・ラッシュ』はファミコン世代からディズニー王道映画が好きな人までおすすめ。エンドクレジットがはじまっても席を立たないように。

――――ただ、ぼくは古典的な話であることは理解しながらも、酒が好きなので飲み会に来てみたら、大嫌いなヤツが参加してて、あげく酒グセが悪く、いろんなヤツに絡んで、周りに迷惑かけまくって、会が台なしになるが、翌日当の本人はケロっとした顔して、いやー楽しかったですねーとか言ってくるみたいな映画だったという感想を持った。