出会って4秒で闘い『パシフィック・リム』

遅ればせながら『パシフィック・リム』鑑賞。2D字幕。

超巨大ロボとクソでかい怪獣が海でステゴロ試合をするというわかりやすいコンセプトが打ち出された予告編/ティーザーを観たときから期待値がウルトラメガマックスになり、「やばいこれ以上予告編を見続けると過度に無駄なイメージが刷りこまれて本編を観たとき思ったよりたのしめないかもしれない」となるべく目に入れないようにしていた。

なんといっても監督は「わかってる」オタク、ギレルモ・デル・トロ御大である。『ブレイド2』ではドニー・イェンを起用し、『パンズ・ラビリンス』は「千と千尋の神隠し」のグロ地獄版ともいえる内容で、ヒット作となった『ヘルボーイ』の続編でも今作の布石のような巨大怪獣バトルを入れたりと「こいつが撮るなら間違いない」感もあって、観るまえからすでに傑作扱いではあったんだけど、さすがにここまでのものになってるとは予想できなかった。予告編だけでもとてつもない映像なのに本編はそれ以上のことが起こっていたのであった。

もうすでにいろんなひとが書いていると思うが、細かい設定こそあれ、それを運ぶストーリーはほぼないに等しい。

太平洋の海の底にある時空の裂け目からKAIJU(怪獣)が出現(みんながヘンテコリンな発音で「カーイジュー」と言っているのが感慨深かった)。すべての軍事力をつかって最初の一体をたおすも、これでは効率がわるいとイェーガーという超巨大ロボをつくって、なんとかそのあとの数体を撃破。しかしKAIJUのほうも日々日々進化しており、エース級のパイロットであったベゲットくんはある戦いで兄を亡くし、イェーガーのパイロットをやめてしまう。そこから五年後。今度はイェーガーの効率の悪さに世界各国の首脳がイェーガー計画を中断。そのかわりに怪獣の侵攻を阻む巨大な壁を建設するという別の策に打って出ていた(そっちの方が効率悪い気もするが……)。そんなある日、パイロットをやめ、肉体労働に従事していたベゲットくんの元にかつての司令官がやってくる……

いちおうストーリーのなかにはテンプレというか、こういう映画にかかせないドラマ要素がたくさん取り込まれているが、2時間10分内におさめるべく、それはすべてダイジェスト化されている。とても『パンズ・ラビリンス』を撮った監督とは思えないくらい幼稚で無邪気だが、すべて意図していることは想像に難しくない。兄を亡くした主人公がふたたびイェーガーに乗るのか、乗らないのかという葛藤はつぎのカットですんなり解決。各キャラクターも成長してるとは言いがたく、恋愛要素も匂わすだけで直接的な描写はなし。世界観の説明もナレーションと怪獣が暴れまわる映像のカットバックによってテンション高めに演出。それこそ「出会って4秒で合体」ではないが、余計なインタビューとかセクシーなイメージ映像、じらしながら服を脱がすなどの前戯はすべてカットし、ハイ!再生、ハイ即挿入!といった具合である。

しかし、そういった欠点を遥かに上回るデル・トロのオタク力には頭が下がるばかりだ。

KAIJUという単語が出てくるが、それだけにとどまらず、思ったよりもジャパニーズカルチャーへの愛がふんだんに詰め込まれていて「マトリックス」「キル・ビル」「スコット・ピルグリム」とその機運が高まってるなかでの頂点を見た気がした。デル・トロもおなじようなことをやりたかったのだろう。その知識をひけらかすのではなく、血と肉になっており、自然とにじみ出てるのがよくわかる。

どのへんまで公言し、どのへんまで意識しているかわからないが、指摘したらキリがないほどの引用/オマージュに満ち満ちている。「ゴジラ」や「ウルトラマン」その他ロボットアニメに関しては言わずもがなだが、得体の知れない怪獣が次々に襲ってきて、それを数体の巨大ロボが協力し、素手をメインに殴り殺すというのは「エヴァ」だと思うし(あとロボが怪獣によってズタズタにされる描写)、巨大な壁を建設して怪獣から街を守るという発想は「進撃の巨人」っぽいし、たくさんのボタンがあり、ペダルで操作するというのはX-BOXで発売されたゲーム「鉄機」をイメージさせたし、怪獣と戦うシーンの撮り方はアメリカで公開されカルト化されている「大日本人」のようだし、クライマックスのアレは「空飛ぶゆうれい船」っぽかったし、オタクのでこぼこコンビは「隠し砦の三悪人」のふたりみたいだったし(しかもJJエイブラムスにそっくり)、街並は「ブレラン」、身体にプラグを差して記憶を共有するというのは「攻殻機動隊」、ジプシー・デンジャーはドラゴン入りまくりで*1、クリムゾン・タイフーンは「雷雲旋風拳」なる必殺技をつかい、それが「ストII」っぽい――――などなど、その他にもたくさんあるのだろうが、ホントに書ききれないのでとりあえずこの辺でやめておく。

いろいろ書いたが、とにかく200億近い金をかけて、巨大ロボと怪獣が暴れまわる画をこれでもか!と見せてくれるだけでお腹いっぱい5億点映画。あいもかわらず観るひとを選ぶが(実際、知り合いで巨大ロボと怪獣が暴れ回るって絶対にダメ映画じゃんといってる人もいた)、観たひと全員「これはオレのためにつくられた映画だ!」となること必至。『パンズ・ラビリンス』の完成度にはほど遠いものの、方向性がまるでちがう超大大大傑作。できればでっかいスクリーンで観ることをおすすめ。デル・トロのKAIJU愛にむせび泣け!

あ、あと菊池凛子芦田愛菜ちゃんがかなり活躍するのでそこも注目。ハリウッドの超大作で彼女たちが出てくるのも感慨深い……ただし、菊池凛子はなぜか日本語がヘタクソな役だが。

*1:一応書いとくがブルース・リーのことな