『貞子3D2』を「スマ4D」で観た!

『貞子3D2』を話題の“スマ4D”で鑑賞。Tジョイは朝一からやってるのにユナイテッドは夕方からしかやってないというのはこれいかに。

「映画とは見世物小屋であるべき」というのをわりと信条としているぼくにとって*1、ウイリアム・キャッスル*2よろしくのギミックを駆使した上映形態は待ってましたと言わんばかりであり、前作では東京の一部上映館のみ行われた「4D」上映だが、今回はスマートフォンを使うことによって全国展開される。これもデジタル上映の恩恵だろうか。

さて、この「スマ4D」だが、予想以上に楽しかった。

スマホに専用のアプリをダウンロードし、機内モードにして電話がこないように設定したあと、マナーモードを解除し、音量を最大限まであげておく。そして映画がはじまると同時にアプリを起動させれば準備完了。

とりあえず上映中ではマナー違反とされているが、スマホが鳴ったら席に座ったままふつうに通話してみよう。あらふしぎ。劇中での電話の相手の声が自分だけに聞こえてしまう。それだけでなくLINEのメッセージがとどいたり、カメラをスクリーンに向けるとスマホの画面に何かが写りこんだり、siriに「たすけてー」というと…………まぁこれ以上書くと楽しみが半減してしまうのでやめておくが、この「スマ4D」なるものは、はじめて3D映画を観たときのようなアトラクションとしてのたのしさに満ちあふれていた。まだまだ黎明期といえる状態ではあるが、『マイ・ブラッディ・バレンタイン3D』がそうであったように、こういうギミックとホラー映画の相性はすこぶるよいので、これからも映画館でしか味わえないような感動を技術屋さんにはどんどん提供しつづけていただきたいなと素直に思うのであった。

しかし、それとは別に作品としては最低最悪。歴代のホラー映画をワーストから数えるとすぐこのタイトルにぶちあたるくらいの出来であることは否めない。

前作ではまだマシだった(それでもヒドかったけど)魅力的な人物描写は皆無。全員がトラウマをかかえており、妙に暗く、生きることに絶望している。ネットに増殖する貞子というコンセプトも『回路』からのいただきで、それを意識したような自殺シーンもあったが、今作では一切ない。スマホを見ることを前提に作られているのか、そういった物語を動かすような映像の運びかたや画の楽しさはガリガリと削りとられている。

それだけじゃなく驚かすことに必死すぎて、肝心の恐怖描写は……といった具合だ(これは前作にもいえることではあるが)。確かに「3Dで目の前に貞子が!」とか「急に電話が鳴って!」など、そういったコトに関してぬかりはないが、それ以上に土台となるべき「怖さ」の部分にぬかりがありすぎて筆舌につくしがたい。驚きと恐怖はまるでちがうものということを理解していないのか、わさびのように一瞬だけツーンとしても唐辛子のようにしつこくヒリヒリしてこない。しかもそのわさびが山から採ってきてすりおろしたものではなく、粉わさびであるというのがなんとも……

映像のトーンはティーザーにもあるようなダークブルーで統一。しかし、なぜか分からないが、このダークブルーにこだわりすぎて、登場人物たちは昼間はもちろんのこと、夜でも絶対に建物のなかの電気をつけようとしない。わざわざオムライスをつくってケチャップで文字を書いたものを食べさせようとしてもキッチンは真っ暗。食欲がないという子供のために「じゃあおにぎりでも作ろうか?」というときもリビングは真っ暗。風呂場も真っ暗。寝室も真っ暗。職場も学校も病院も刑務所も真っ暗――――節電といえばそれまでだろうが、あまりにも不自然すぎる設定がノイズとなり、こちらを怖がらせてはくれない。作り手たちは暗闇=恐怖であるといまだに思っているのだろうか?だとしたらそれは大きな間違いで、昼間っから幽霊を出現させて、あれだけ怖い黒沢清の作品群を200回ずつ見直せと言いたい。いや観てるんだろうけど。

お話も納得いく個所を数えたほうが早いというくらい破綻しており、終始小首をかしげながら観ることになる。何が起こってるのかよくわからなかったシーンも多く、置いてけぼりを喰らうような展開になることもしばしば。無理矢理な前作からのつながりも集中力の妨げになるだけで、主人公を変えた時点でまったく違う話に作り替えたほうがよかったのではないかといらぬ懸念を抱いてしまう。

貞子を出してはいるが、基本的にこの作品は『キャリー』 『エクソシスト』 『シャイニング』 のしぼりかすからできたような映画であり、もはや『リング』とは関係ない(貞子を「S」と表現するあたりもクソダサい)。これ原作がそうだとしたら貞子モノはいよいよアイデアが枯渇してるとしか思えず、出涸らしでボッタくるくらいならもうやめちまえ!と言いたくなるが、一定のペイラインをクリアできる以上は仕方がないのかもしれない。まぁ泣かせる純愛映画よりは遥かにマシだし。

風立ちぬ』でもヒロインを演じた瀧本美織は新世代のホラークイーンとして八面六臂の大活躍。貞子的なポジションの平澤宏々路も独特の存在感で大変素晴らしかった。映画としての見所はそこしかないといえる。あとしいていえば大量の血が井戸からドバー!……ってやっぱりそれ『シャイニング』じゃないか!!

というわけで、これを3Dないし2Dで観ることは苦行以外の何者でもないが、アトラクションとして「スマ4D」を体験するならばなかなかおすすめ。ただし、シーンによってはスマホをずーっと観ることになるので、それは映画としてどうなの?と思わなくもない………

*1:「わりと」なのでもちろん作家性の強い映画も好むが

*2:作品は見たことないがイスに仕掛けをしたりと映画館全体をアトラクションのように演出した映画監督