ワーストワンは言いすぎにしてもちょっと分かる気がする『東京家族』
『東京家族』鑑賞。こないだテレビで放送されたヤツ。
はじまって数分で爆笑してしまった。
売り出し方や宣伝、予告等を見て、小津へオマージュを捧げた山田洋次なりの『東京物語』解釈だと思っていたのだが、いきなりの完コピっぷりにそこまでやるか徹底してるなと思ったからだ。
現代の高校生はそんなこといわんわ!と言いたくなるほどセリフまで一緒にしていて、展開はもちろんのこと、構図や撮影、色調(カラー時代の小津風)、音楽まで見事に小津安二郎/『東京物語』をそのまんま再現しようとしている。
しかし。ところどころ細かい部分だけでなく、設定そのものがガラっと変わっていたりして、その改変に「?」が浮かび、見終わるころには「小津にオマージュを捧げたわりに小津が映画で描こうとしていることの真逆をやってるし、かといってリメイクとしては中途半端で山田洋次監督は一体どういうつもりでこの作品を撮ったのだろう」とわけがわからなくなってしまったのであった。
以下、ネタバレ。
このご時世に田舎から東京にくることがさも大変みたいに描かれるには無理があるとか、携帯電話を持たせる必要はあったか?とか、そういうことは置いといてもふたつばかし小津が映画に求めたことの覆すような改変があり、それが気になった。
まずひとつめだが、橋爪功はなんであんなキャラクターになってしまったのか?ということ。
ハッキリいって田舎から出てきてうっとうしがられるのもわかる、人としてイヤな親父である。次男にだけ「お前は生きてる価値もない」的に振る舞い、大酒飲みという設定になっていて、身体を悪くしてからは酒をやめている。お母さんにすすめられても飲まない。しかし、中盤。旧友と再会して酒を口にしてからはさぁ大変。周りの客に迷惑をかけるだけでなく(実際迷惑かけたのは小林稔侍なんだけど)、閉店後までダラダラと居座り、居酒屋の女将に「客のいうことが聞けんのか!」とくってかかる始末。あげく夜中に長女の家に帰ってきてはゲロをぶちまけるというとんでもない男。
そもそも小津安二郎という人は映画に「美しさ」を求めた人である。当然描写はなかろうが、ゲロを吐く人間なんて映像に出すはずがなく、故に小津こそナンセンスという風潮が当時あったようだが『東京物語』の笠智衆は朴訥とした絵に書いたようないい人であり、こんないい人が家族に邪険にされるなんて……という残酷性を表現する重要な役どころであった。それをなぜないがしろにしてしまったのか。逆にいえば、こんなろくでもない親父をよくここまで温かく迎え入れるなと思ったくらいであった。
もうひとつ気になったのは次男が生きているという設定にしたことである。
その次男の恋人(蒼井優)が原節子のポジションにあたるわけなんだが、『東京物語』のキモは「血のつながってない娘がいちばん老夫婦によくしてくれた」という部分であり、そこが「家族って一体なんだろう?」いうところに直結している。だからこそ「わたくしずるいんです」というセリフが活きてくると思うのだが、明らかに彼女が添え物になっていて、そういうシーンも無理矢理いれた感がハンパじゃない。
そもそもこの役はある意味で小津が原節子にあてたラブレターみたいなものである。『晩春』もそうだが、宮崎駿の「クラリスにおじさまって呼ばれたい願望」と一緒であって、小津といえば原節子なのにそこを改変してしまうのはいかがなものか。別にリメイクだから、その辺に目くじら立てるのもどうかと思うが、小津を愛し、小津を尊敬し、小津に本作を捧げている山田洋次がこのあたりになぜ気をくばれなかったのか。
他にも横浜の高級ホテルに宿泊させたのとか意味が分からない。それこそ『東京物語』と同じように温泉でよかったのに、居心地悪い街東京を植え付けたいがための改変という気がしてならない。廊下でワーワーわめいている中国人の声が筒抜けになるようなホテルなんてやめちまえ!防音をしっかりしろ!
最初に少しだけふれたが、セリフも当時のものをそのまんま使っているので、現代の高校生が「勉強する場所がないじゃないかぁ」とまるでえなりかずきのように喋るのも違和感以外の何者でもなく、その「なんのために作ったの」感に拍車をかける。後半展開が変わるとそのあたりが薄まっていくのも………
『東京物語』同様、おかあさんが死ぬんだけど、ここもあっさり描いていたのに対し、現代版はご丁寧に倒れてから病院に運ばれ死ぬくだりまで丸々見せる。その時点でもどうかと思ったのだが、さらにそこで妻夫木が号泣+説明セリフをいって一気になえた。そういえばさっき橋爪功がヤなヤツになってると書いたが、逆に中嶋朋子が妙に面倒見のいい設定に変えられていたので、これまた形見のくだりがとってつけたようになってる。
3.11も別にいれなくてよかったように思った。っていうか、3.11が絡んでるってことでてっきり次男はその震災でなくなってるっていう設定だと思ったんだよ!んで蒼井優が老夫婦を……みたいな!!
ネタバレ終了。
というわけで、ある意味いかんともしがたい映画だった。よかったところは小津を意識した映像と役者全員の演技。特に妻夫木はオリジナルキャラクターということで緊張もしていただろうが、すごく良い仕事をしてたように思う。とはいえ、あまりに彼だけが現代人っぽいので浮いてはいたが。
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【追記】こないだ書いた小津のパンフォーカスについて。
リマスターの際の画質のシャープネスを若干きつめにしてしまった結果、全体的にピントが合ってるように見えたのでは?というご指摘いただきました。なるほど。その要素も多分にあるとは思う。