『M:I-5』が公開される前に再評価せよ!『誘拐犯』

『誘拐犯』をDVDで観た。十数年ぶりに観たというほうがただしい。『ユージュアル・サスペクツ』の脚本で一躍脚光を浴びたクリストファー・マッカリーの初監督作である。

実は彼が監督した『アウトロー』はトムじゃなければ…とわりと苦言を呈するような評価を下したのだけれど、映画そのものは嫌いになれず、むしろ好感を持って観た。クリストファー・マッカリーというこの男、脚本家としては『ワルキューレ』や『ツーリスト』など、わりと映画ファンにとってはどうでもいい作品を書いているが、その『アウトロー』しかり『誘拐犯』しかり、監督作となると、本気出すというか、撮りたいものをしっかり撮ってるということになる。

あるものを盗んだら、それがとてつもない悪党のものだったので警察(画面には登場しないが)とその悪党に主人公が追われるというのが主なあらすじ。否が応でもドン・シーゲル監督の『突破口!』を彷彿とさせるが、銃撃戦はペキンパーばりのボリュームでカーチェイスは『ブリット』など、映画ファンならニヤリとするシーンで構成されている。実は『アウトロー』も同じように『突破口!』や『ダーティ・ハリー』の影響が感じられるため、元々この人の資質として70年代の硬質なアクション映画を現代でやるというのがあるのかもしれない。意識的にせよ、無意識的にせよ。

映画的かつ、ある程度のリアリティラインをキープしている小粋なセリフ回しは物語に必然性がないところも多く散見されるが、これが非常に小気味良く、作品が現代に寄っている。主人公ふたりがゲイの関係だとウィキペディアには書いてあったが、そのあたりもアメリカンニューシネマらしくて良い。ちょっとここ最近の映画とは思えないほど新しいクラシックで井筒監督あたりが喜びそうなほぼ完璧な映画。特に冒頭のシーンは『アウトロー』にも同じような展開があったので、初監督作にはその人のすべてがでるんだなぁと改めて思った。

というわけで、トム・クルーズとの関係性もあってか、クリストファー・マッカリーは『M:I-5』の監督に抜擢されたが、公開前に予習しておくことをおすすめしたい。いまひとつ評価が低いような気もするが、もっともっと多くの人に知られるべき隠れた傑作である。

誘拐犯 [DVD]

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