第二の『ダークナイト』になれるはずだった『サブウェイ123』


昨日、レイトショーにて『サブウェイ123 激突』鑑賞。にしても「激突」っているか?絶対にダサイだろ!?

切れ味鋭いカット割りとスタイリッシュな演出、密室での会話による攻防、主演がデンゼル・ワシントンって事で、「これ地下鉄版『クリムゾン・タイド』じゃん!」って思ったら、監督はトニー・スコットであった。

地下鉄をジャックして身代金を要求した悪党、その悪党と交渉するはめになってしまった地下鉄職員という、どっかで聞いたような設定なわけだが、いやはや、過去に二度もリメイクされた作品であるらしい、、、、事前に情報を入れずに見るとこういう事になる。

サブウェイ123』の前半はかなりスリリングでひょっとしたらトニー・スコットの中でも3本の指に入るんじゃないかと思うほど傑作の匂いがした*1

地下鉄をジャックした男は素性がまったく分からない。一体誰なのか?何の為に事件を起こしたのか?何故死を恐れてないのか?何故聖書に出て来るような用語を使うのか?

そんな素性が分からない彼が、人質を武器に、交渉役の地下鉄職員やニューヨーク市長の欺瞞をどんどん暴いて行く。「この場所(地下鉄)は告解室みたいだなぁ」と言うが、彼は人の命や死を武器にした悪魔であり、その純粋悪を極限まで高めた神の使いのようにも見える。

登場人物が腹に一物抱えたヤツばかりというのも非常に「らしくない」作品だし、主人公であるデンゼル・ワシントンは彼のおかげで贖罪した事になり、最終的にはある意味で救われるのだが、この辺も今までの映画にはなかったような作りだ。

悪役の設定は明らかに『ダークナイト』のジョーカーを踏襲したもので、今までドレッドヘアーのイカレた宇宙人や、IKKOのようなヘアスタイルで強盗するといった、しょーもない悪党を演じて来たトラボルタにとってはかなりの当たり役だったようにも思う。

全体的にセリフが粋でかっこよく、会話劇としてかなり見応えがあるのだが、それが顕著に表れたのが、「身代金を運ぶ事になったデンゼル・ワシントンが、妻に一方入れる」シーン。普通は「これから命に関わる事をする、もしかしたら死ぬかもしれないから最後に君に言うよ、愛してる!」とかなるはずなのだが、この映画では、

「明日の娘の運動会のハードル走だが、前を見て走れと伝えておいてくれ」
「自分で明日ちゃんと伝えて、それよりも帰りに大きい牛乳を買ってきて」
「そうだな、でも小さいヤツで良くないか?」
「だめ大きいヤツを買って来て」
「分かったスーパーで買って帰るよ、でも小さいヤツにする」

となっていて、シーン自体が感傷してない分、観客が汲み取る事によって感動を覚える粋な作りになっている。


ところが――――前半は普通のポップコーンムービーとは一線を画す作りになっていたものの、後半になると巷で見られる、みんなが思い描いているような、ブラッカイマー印っぽい、ハリウッド製の普通のアクションになってしまう。その辺がトニー・スコットの良いところでもあり悪いところでもあるというか――――

一番ダメなところは、トラボルタの役がジョーカーのような純粋悪なのにも関わらず、『ダークナイト』で提示したメッセージをはき違えている点だ。前半、アレだけ謎めいていたトラボルタだが、結局彼が起こした行動には動機があり、さらに何をしたかったのか?というのも、『ダイ・ハード3』みたいで拍子抜けしてしまった。ジョーカーに関して言うと、日本でも「動機が明示されないために狂人にしか見えなかった。」てな事を言ってた人が居たので、もしかしたら「はいはい、高尚な事言っても、あんたらには分からないんでしょ?じゃあ、動機とか付けたら納得するんでしょ?」というような制作者からのアンサーなのかもしれない。それでも前半であれだけ哲学的な押し問答してるんだから、その伏線をなし崩しにするというのは、バランスが悪過ぎる。

そして、後半でデンゼル・ワシントンがスーパーマンになってしまうのはやっぱりいただけない。あんたは罪を告解した事で神に贖罪したんだから、あんな事はしなくたっていいんだよ!!とっとと牛乳買って家に帰れ!!バカ!!

というわけで、『サブウェイ123』だが、後半の持って行き方によっては第二の『ダークナイト』になり得たかもしれなかっただけに、惜しい!という印象は拭えない。帰って、いろんなレビューやら感想を見たが、全体的にそこまで高い評価じゃないのがそれを物語っている。個人的にトニー・スコットは嫌いじゃないので、ここらで『トゥルー・ロマンス』級の大傑作を作ってほしいものだ――――あ、書き忘れたけど、撃たれて人間がズタズタになったり、脳みそがブシュって吹き出るゴアなフレーバーがちょっと入ってて、それも『ダークナイト』になかった描写だったので、よかったよ!

サブウェイ123』を観たら、『交渉人』と『ソードフィッシュ』が観たくなったので、DVDの棚を探したら、奇しくもこの二本が隣同士だった、あういぇ。

交渉人 特別版 [DVD]

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ソードフィッシュ 特別版 [DVD]

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ダークナイト 特別版 [DVD]

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