恐怖!戦慄の『オーディション』

『オーディション』をUS盤BDで鑑賞したのだが、これが映画としてもソフトとしてもかなり楽しいモノだった。

『オーディション』はTIME誌が選ぶ「ホラー映画ベスト25」の中で唯一の日本映画としてランクインされた作品――――ということはいろんな雑誌等で語られてるので今更の感もある。

ぼくは人体が景気良く弾け飛ぶ映像は大好物なくせに、その反面「痛い」描写がある映画が苦手で、だから『オーディション』も観てなかった。

『オーディション』は妻を亡くした中年の男が、映画製作のオーディションで嫁探しをするという変わったストーリーである。

日本以外でやたら評判が良い作品だが、なるほど観て納得。これ、どの映画にも似ていない、いわばジャンルレスな傑作で、基本的にホラーに括られてるけど、そんなことはなく、むしろホラーである部分は限りなく少ない。演出、脚本、演技が三位一体となった映画的芸術の極み。アート性と娯楽性の同居と良い部分を言い出したら枚挙にいとまがない。作品はまったく違うが、この感じは『悪魔のいけにえ』を初めて観た時の感動に似ている。

石橋凌や國村準の抑えた演技とそれをじっくりじっくり捉えるカメラがジリジリとした緊張感を生み、後半のモンタージュと例の「痛い」シーンで映画的な興奮を大爆発させる。ニューホラーヒロインとしてのしいなえいひの存在感はやはり素晴らしく、テンションの低いウィスパーボイスが余計怖さを感じさせてくれる。

ぼくとしてはぶっちゃけ邦画の中でもオールタイムベストと言えるくらいおもしろかったのだが、この『オーディション』は、BDの特典がとにかく素晴らしい。日本ではまだ発売されてないが、恐らくアメリカで熱狂的なファンが多いのだろう。このUS盤は相当リキが入っていて、特に三池監督と脚本の天願大介によるオーディオコメンタリーが相当おもしろい。

話を聞いてる限り、三池監督は『オーディション』という作品に対する思い入れは強い。未だに映画祭なんかに行っても、ファンから『オーディション』の話をされるし、ヨーロッパで三池監督の「普通」の映画が公開されると「三池は終わった」と言われるくらいイメージが強く、ある意味でマスターピースである。

ただ、撮影に関しての思い出はあまりないらしく、故にさらっと『オーディション』のことを話した後は、脱線していって、しまいにゃ、タランティーノ論、石橋蓮司論、そしてトビーフーパーから電話が来た!なんていう話になっていって、それが無茶苦茶おもしろいのである。

『オーディション』は山本英夫が撮影を担当していて、彼の撮影がホントにリアル指向で素晴らしいのだけれど、『HANA-BI』も山本英夫が撮ってて、それに関して三池監督が「山本英夫って男は早いうちに両親を亡くして、さらに今、親戚が一人も居ないっていう男なんですよ、北野武監督も一度死を経験してますよね、だから『HANA-BI』にはその二人の死に対する感覚が出てる映画なんだと思ったんですよ」みたいなことを言ってて、それがすごい興味深かった。

インタビュアーに「最近山本さんと組んでますよね?」と聞かれ「はい、組んでますよ最近一緒にしたのは『ヤッターマン』(笑)」って言ってたところで爆笑してしまった。「この人のカメラには死の匂いがするって言ってたのに、全然テイストが違う!」ってツッコまれてたし。

あと、三池監督自身が作品を観ながらツッコミを入れていくのがおもしろかった。「この後ろ姿!一体どんな生活してんだよ!って思いますよね」「やっぱりオーディションのくだり長過ぎますよね」「『オーディション』ってタイトルなのに唯一オーディションのシーンここだけですからね」とか。

他には役者のロングインタビューがあったりして、それはリージョンが違うからパソコンで観たけど、これも素晴らしかった。しいなえいひが元々三池監督の大ファンだったこともあって、この役も即座に受けたそうだ。この人女優としてのカンが素晴らしい。話を聞いてて思った。

ということで、『オーディション』が好きだ!という方はこの特典満載のUS盤がおすすめ。正直、画質はそこまでずば抜けてすごいというわけではないけど、音はバツグンに良いので、キリキリキリのシーンは音だけで身悶えすること必至だ。あういぇ。

Audition: Collector's Edition Blu-ray (1999)