ネタバレなし!『インセプション』感想

インセプション』鑑賞。ドンキに群がってそうな若者からお年寄りまで幅広い年代が観ていて驚いた。

現時点でのクリストファー・ノーランの最高傑作であると共に、「ホントにオレのしたことは正しかったのか?」とさんざん悩み、最終的に「それでも人は前に進まなければならない(生きなければならない)」という結論に至るまでのプロセスを撮り続けて来た彼の集大成的な作品でもある。

現実の中で夢を見て、その夢の中で夢を見て、さらに、そこでも夢を見て………というだけじゃなく、潜ってく段階で誰の夢をベースにするのかというのを選択出来、さらに夢に潜れば潜るほど、深い夢、浅い夢、現実という三つの間でタイムラグが生じ(故にそれを表現するため、浅い層の夢が超スローモーションになる)、夢の中で死んだら目覚めるといったルールや、深い層の夢から体全体に特殊な衝撃を与えると一層ずつ戻って来れるという複雑極まりない設定もさることながら、任務のために夢の中の夢に潜って行く人間とそれぞれの層に留まる人間がいるため、各層の夢で起こることがすべて同時に進行していくという超絶なストーリーテリングでもって2時間半の上映時間を突っ走って行く。

こうやって書くと、「そんな難しいことがホントに理解出来るの?」と思うかもしれないが、そこはハリウッド大作。渋滞を起こしかけてる脚本を見事な交通整理で持って誰でも理解出来るように編集がされており、さらにその複雑な構成のおかげで生まれるハラハラドキドキのサスペンスを軸に、SF、犯罪映画、ラブストーリー、人間ドラマ、アクション、カーチェイス、銃撃戦、親子の絆と、それぞれの映画でしか味わえない感動をオムニバスでない形で同時に体験出来るという、文字通り「夢」のような作品になっている。

上記の画像のように街が半分にへし折れたり、オシャレな街並が超スローで華麗に爆破されたりと、なかなか衝撃的な映像もあるが、実は映画自体はとても古典的な作りで、それぞれのプロ集団を集めるというシークエンスから、高い所から飛び降りたりするだけのシンプルな追いかけっこ、爆走する列車やカーチェイスなどは、今までの映画ではごくごく当たり前に使われていたシーンだったりする。

さらに「カットが変わると他の場面になる」という映画において当たり前の手法が、カットが変わると「夢」になっているという映画の構造と密接に結びついて行き、自然と映画であることが必然的な物語であるということを認識させられていくところも素晴らしかった。

特に夢を設計するために呼ばれたエレン・ペイジがいきなりおしゃれな街並をデカプリオと歩き、さんざん歩いた後に「どうやってこの場所まで着た?」と聞かれて答えられないシーンがあるが、あれはまさに映画でしか出来ないユニークな演出であると言える(カットが変わったことによって、観客はただ単に場所を移動したとしか思えず、夢の中にいたとは思えないため)。

ド級の展開と映像が続く中で、やはり印象的だったのは飛行機の中で迎えるシーンからラストまでの流れだ。あれだけCGやスタントを使いながらも、飛行機の中で迎える役者たちの安堵の表情と「ぐらつくコマ」という繊細な演出でもって深い感動を起こすとは誰も予想出来ないだろう。

夢という精神的にしっかりしてないと、不安定になる場所で、ちょー不安定な精神を持って夢に潜るデカプリオがなんらかのトラブルを呼び起こし、それがいちいち素晴らしい。新潟が生んだハリウッドスター、ケン・ワタナベもいわゆる日本人としてでなく、ハリウッドのいちスターという扱いで映画の中に登場するのは涙が出そうになった。

個人的にはリアルタイムで『メメント』に出会ったためその衝撃はさすがに越えられないが、『メメント』から『ダークナイト』までの間、まったく相性が良くなかったノーラン監督の中ではやはり飛び抜けた傑作の一つ。なるべく情報をシャットアウトして劇場へ走れ!あういぇ。