むきだしの先『冷たい熱帯魚』

冷たい熱帯魚』鑑賞。

震災後、あまりのショックでなんもやる気が起きませんでした。スピッツの草野さんもショックでぶっ倒れたらしいですが、ちょっと分かる気がします。連日何も考えずにゆるーく笑える「水曜どうでしょう」ばかり観ていて、ホントに映画も観る気が起きなかったのですが、二週間限定ながら我が新潟でもこの超話題作が公開されたということで、これは観に行かないとと重い腰をあげていきました。

ハッキリ言って説教臭いセリフ回しも多々あるが、でんでんの強烈なハイテンション演技によって、脳のしわのひとつひとつにそれらが染み渡るようにこちらに迫ってくる。映画の主人公じゃないが、胸ぐら掴まれて、ゆさゆさ揺さぶられながら「おい!お前はどうなんだ!?」と言われてるような感じがあった。終止ビンタされてるというか、映像でのレイプというか、ベタな言い方すると目が覚めたというか、まぁどうしようもない常套句しか浮かばないが、ホントに嘘偽り無く「覚醒する」ような映画。マネーメイキングスターの存在は皆無、内容も一般受けしないエクストリームな要素がふんだんに詰め込まれていて、エログロに過剰な暴力とR-18を勝ち取った内容は各方面で「強烈なやばい映画」と言われていたが、なるほどそれは伊達じゃない。こういう映画を日本で観たかった!と声を大にして言いたい快作であった。

埼玉県愛犬家殺人事件をベースに、冷め切った後妻との関係、そしてその結婚のせいで娘と気まずい思いをしている男が主人公。ある日娘がその環境に耐えきれず万引きをしてしまうところから映画はスタートする。その現場にたまたま居合わせた大型熱帯魚店を営んでいる村田という男が、その娘を救ったことから、主人公一家にずかずかと土足で入り込んで行き、事態は思わぬ方向へと傾いていく。

前半は徹底したリアリズムで埼玉県愛犬家殺人事件を丁寧になぞっていき、後半は『わらの犬』や『フォーリング・ダウン』のようにフィクショナルに脚色。徹底したリアリズムと映画ならではの大胆な展開が妙なカタルシスを生み、それが不自然なまでに同居。突然大写しになる文字やギャスパー・ノエの如く、大音量の効果音でガツーンガツーンと脳をぶっ叩かれてるような不気味な演出がところどころに現れ、主人公の心の不安をそのまま写したような画角と不自然に揺れる手持ちカメラが全編を覆い観客を巻き込んで行く。園監督による容赦ない演出に繊細さはなく、常に乱暴だが、その乱暴さがとにかくこの映画の魅力と言ってもいいだろう。

様々な人が言及してるようにとにかくでんでん、吹越満黒沢あすか、渡辺哲の存在感が強烈。おっぱいと血と人体破壊というエクストリームな内容ながら、実のところ映画で描かれるのは人間そのものの狂気とエゴだ。故に自分が想像しているような映画とは違っていた。自分が今過ごしている世界はもしかしたら嘘に塗れてるんじゃないか?ホントに殺したいほど憎い相手が世の中にいたとしたら自分はどういう行動を取るべきなのか?という突きつけがあり、梁石日の『血と骨』のように欲望のまま突っ走るということはどういうことなのか?というのを実戦してるような映画でもあった。それに気弱な小市民を主人公に設定したことで、自分もこういうことに巻き込まれてしまうかもしれないという圧倒的なリアリティがある。

かなり観る人を選ぶし、絶対に観た方がいいよとおすすめしにくい、さらに賛否両論になるのも分かるが、個人的には『愛のむきだし』に続いて強烈な感銘を受けた。もう一度観るとしたら確実にこちらだろう。愛をむきだしにした後、人間をむきだしにしてしまった園監督の次回作が楽しみになった。とにかくドMな人、この世に殺したいほど憎いヤツがいる人、この世の中は全部嘘ばっかりだと思ってる人は必見。あういぇ。


関連エントリ
『冷たい熱帯魚』(園子温) - Devil's Own

2011-02-01 - THE KAWASAKI CHAINSAW MASSACRE

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