ゲームのハイスコアを競い合う男たち『キング・オブ・コング』

『The King of Kong: A Fistful of Quarters(キング・オブ・コング 一握りのコイン)』鑑賞。

ドンキーコング』というゲームがある。

言わずと知れたニンテンドーのヒット商品で、あのマリオが初登場したことでも有名だ。アーケードの筐体から始まり、ファミコンゲームボーイでもリメイク版が発売され、今やWiiバーチャルコンソールでダウンロードまで出来るので、とりあえずゲームの説明ははぶくが、82年、この『ドンキーコング』のハイスコア/ワールドレコードを叩き出した男がいた。

彼の名はビリー・ミッチェル。874300点という前人未到の記録は未だに破られることなく、2位の記録に30万点以上の差をつけている。彼は現在42歳。今はBBQソースの販売業を営んでおり、レストランも経営している実業家で売り上げも上々。彼は伝説のゲーマーとしてその名を全米中に轟かせ、ニンテンドーナムコからも表彰されるほどの強者だ。

一方その頃、25年もの間破られることがなかったこの記録に挑む者が現れた。その男の名はスティーブ・ウィーヴ、35歳。彼は神童として、小さい頃から勉強もトップ、野球もバスケも大得意。絵を書かせればプロ級(書く絵は何故かダース・ベイダー)で、ピアノもうまけりゃ、ドラムも叩けるという天才肌。彼はそこまでの才能を持ちながら、その才能を人生に活かすことが出来ず、田舎の学校の理科の教師として、平々凡々と暮らしていた。

そんな彼が一念発起し、何故か『ドンキーコング』のハイスコアを狙うという人生の目標を立てる。練習に練習を重ね、さらには徹底的な分析、そして今までの人生経験のすべてを指先に込め、ついには100万点を突破。世界記録として、その記録がおさめられたビデオテープをハイスコアを管理する組織に送るのだが、テープでは公式な記録とは認められない、ちゃんとした大会に出場し、そこで審判が見てる前で記録を出さなければならないと言われてしまう。

ティーブは大会に行き、そこで2時間27分という時間をかけ、985600点というとてつもないスコアを叩き出すのだが………というのがあらすじ。

この作品の存在を知ったのは町山智浩氏の著作『キャプテン・アメリカはなぜ死んだか』から。作品の概要が軽く紹介されており、是が非でも観たかったのだが、当然ながら日本では公開されてないので、日本語字幕もなければ、英語字幕もついてない状態で鑑賞した。まぁ見始めて、理解出来なかったりつまんなかったらやめようと思っていたのだが、結局目が離せずに、そのまま最後まで一気に観てしまった。

ハッキリ言ってしまえば、いい歳こいた大人が、ゲームのハイスコアを競い合うだけの様子を追ったドキュメンタリーだが、これが勧善懲悪の娯楽作としてとても良く出来ている。主人公が記録を打ち立てようとするも、それをあらゆる手を駆使して、阻止しようとする現チャンピオンと記録組織とのゆるーい攻防が起承転結の中でドラマチックに描かれていく。

チャンピオンとチャレンジャーの人となりを徹底的に掘り下げることで人間ドラマとしての側面もきっちり作り上げ、さらにゲームを特訓するシーンでは、過去の自分の映像とゲームしている映像を高速のカットバックで切り替え、さらに過剰なエフェクトと音楽でひたすら盛り上げる。でも、よく考えてみてくれ、ただ、このおっさんはゲームしているだけなのだ!

ところが、その過剰な演出がまるでTBSのボクシング番組を観ているようで、地味な題材がひたすら盛り上がる。特にクライマックスで現チャンピオンとチャレンジャーがすれ違う様は見ていてとてもスリリングでノドがからっからになってしまった。たかだか普通のゲーマーのオッサン同士がすれ違うだけなんだけど!

映画はとてもビターに終わり、やはり現実はこんなもんかと観てるこちらもしんみりしてしまうのだが、エンドクレジットが始まってすぐくらいにでっかい花火が上がるあたりも大拍手の構成。なのでエンドクレジットが始まっても見るのをやめないように!

正直、英語字幕すらないため、よく人間関係が分かってないところもあるのだが、ドキュメンタリーということもあって、映像から得られる情報量はかなり多く、それで最後まで観られたというのもある。

というわけでこの作品。なんとか日本語字幕付きでDVDかなんかを出してほしいものである。噂によるとこの作品続編が作られるようで、それはドキュメンタリーじゃなく、フィクションになるとか……それはそれで見たいが、それも日本で公開されるかどうか……あういぇ。