高低差ありすぎて耳キーンなるわ『ミッション:8ミニッツ』

ソースコード』こと『ミッション:8ミニッツ』鑑賞。

列車の中で男が目覚めるところから映画は始まる。向かいに座っている女が自分のことを違う名前で呼び、まったく覚えのない話題を振られる。どうやら彼女は自分のことを他の誰かと勘違いしているようだ。一体どういうことだ!?とトイレに駆け込むと、鏡に写った自分の顔がまったくの別人だった……というのがあらすじ。

観客巻き込み型スリラーとしての入り口から『恋はデジャ・ブ』をベースに『メメント』と『12モンキーズ』で味付け、さらに『攻殻機動隊』や『インセプション』、『マトリックス』、『オリエント急行殺人事件』までとてつもない分量のサンプリングを行っており、イヤミなく映画記憶を呼び覚ましながらわずか90分というランタイムをジェットコースターのように駆け抜ける。

あえて奇を衒ったりスタイリッシュを狙わない、地に足の付いた演出は、カプセルの中、列車の中、司令室の中という限定された3つの空間をうまくつなげてスリリングに見せている。良い意味で低予算であるミニマムな雰囲気とセンス・オブ・ワンダーなアイデアが合致。設定こそ複雑でぶっ飛んではいるが、映画自体はかなり丁寧に作られており、特に名前の無いキャラクターたちにもそれぞれの人生があるんだという部分の演出がきめ細かく、そこがしっかりしていることで、舞台劇のそれのように人間同士のやりとりでプロットを運んでいくのが特徴。その部分を深く彫り込んだことで、後半では「人生」という哲学的な側面に違和感なく移行することが出来、最終的に「人が生きるとは何なのか?生き方とは何か?これからどうやって生きていったらいいのか?」というあり得ない境地にまで到達する。

ただ、正直に言わせてもらうと、中盤くらいから納得出来ない部分があり、そこからラストまでずっとモヤモヤしたまま観ていた。

観てない人のために抽象的に書かせてもらうと、中盤、主人公のために「あるキャラクター」が軍の命令に背いて「あることをする」のだが、とてもそこまでの行動を起こすような関係性に見えないのである。世界観の説明がなさすぎるというのは不条理な世界に巻き込むのと、その中でどうやって主人公はアイデンティティを確立するか?という作品の本質を援護射撃しているので逆にアリだとは思うが、人の行動原理というのが物語に深く関わっている本作において、この部分をないがしろにしてしまうのは大きな欠点だったのではないか?

そのキャラクターが起こす行動とは逮捕どころか、国から抹殺されかねない、自分の人生をぶち壊すような「死」にも繋がる行動だ。あまり深い関係性や自分の人生とシンクロもしてないキャラクターが主人公のためにそこまでしなければならない理由がこれっぽっちもなく、ホントに些細なことだが、そこだけが引っかかって引っかかって、物語に集中出来ず、モヤモヤしてしまったのである。

ところが、この作品。ラスト2分くらいで、それすらも前フリであったことが明らかになり、強引にうまくまとめてしまうので、まぁそれならばいいか……と一応腑に落ちるような終わり方をするのだ。

ここまで上手いまとめ方をしているのにも関わらず、それがあまりに唐突だったため「いや、まぁ、それはいいんだけど、じゃあそれまであったモヤモヤはどうすればいいんだ?」とぼくはそのまとめ方によって、逆に消化不良になってしまった。恐らくフットボール後藤であれば「高低差ありすぎて耳キーンなるわ!」とドヤ顔で言い放っただろう。

というわけで、超個人的な意見としては、おもしろいし、よく出来ているんだけど……うーん……という感じ。ただ、それとは関係なく『マトリックス』以降の「サイバーかつバーチャルな世界でよっこらしょ」という作品群の中では特出した出来だと思う。あくまでぼくがそういうところで引っかかっただけで、唐突すぎた展開に温度差ありすぎて風邪引くわ!となったが、おすすめであることは間違いない、あういぇ。