メシを喰うまえに謎を解け!

謎解きはディナーのあとで」を四話まで観た。なんで今更なのかというと新潟では絶賛再放送中だからである。じゃあ放送してたときに観てろよって話だが。

まず「謎解きはディナーのあとで」というタイトルの時点で、警察ならメシを喰うまえに謎解きしろよ!と思ったし(大概のドラマで刑事は軽食か急いでかっこめるモノしか食べてない、「ストロベリーナイト」でもBARで飲んでたら呼び出されて、水をガンガン飲んで酔いを醒ましてから現場に向かうなんてシーンがあった)、筋金入りのお嬢さまがなんで警察になったの?とか、執事がいて、そいつが事件をサポートするとか(事件のことを民間人にベラベラ喋っちゃいけないみたいなことをコロンボのときに言ってた気がする)、設定の時点で破綻しすぎだろと観る気も起きなかった。

ただ、一応ミステリーの体裁がある作品は好きだし、今回映画化もされたということである程度人気があるんだろうと、とりあえず観てみることにしたんだけど………

まぁ、見事に予想通りで、とにかくヒドい。いや、予想通りというよりも予想以上の破綻が起こっていた。

ジャンルとしては安楽椅子探偵モノであり、いわゆるレクター博士のごとく、事件の概要を聞いただけで現場にいかずとも、その場でちょちょいのちょいと解決するというアレである。その役割を担っているのが、桜井翔くん。彼は北川景子の執事であり、探偵になるのが夢だったということもあって、彼が推理した通りにことが運んでいく。要するに事件の概要をその推理の時点で説明しているわけだ。こうすることで尺も喰わないし、非常に合理的であるといえる。

第四話ですこしばかり変化球になるが、基本は事件が起こる→ちょっとだけ謎がのこる→メシを喰う→喰いながら事件の顛末を執事に話す→執事にバカにされる→メシ喰ったあとに執事謎を解く→そのまま容疑者の家にいく→証拠を見つける→容疑者自供する→めでたしめでたしが定型であり、さすがに三話の時点ですこし飽きてしまった。いわゆる様式的ななにがしとパンチラインの応酬で寅さんや水戸黄門を見ているかのような錯覚に陥ったが、しかし、おなじことを何度もしているということは、いつどこから見ても入っていけるということなのである。

それが証拠に、連ドラ特有の「途中から見ても大丈夫」というのが設定に反映されている。

基本的にこの作品はキャラクターの背景がまったく描かれない。そこはなかったことというか、申し訳ないけどもテキトーに汲み取ってくれという感じでほっぽらかしている。先ほど書いた通り、なんでお嬢様が刑事になったのか?とか、あってほしい理由がないので(子供のころに警察に助けられて……みたいなヤツ)、途中から観たひとにとっては問題ないが、最初から物語を追ってるひとにとっては毎回そこがノイズとなりお話そのものに集中できない。劇場版の「名探偵コナン」よろしく、各話の冒頭にこれまでの経緯がいちいち入るのもうっとうしい(「コナン」の場合はかっこいい音楽もあいまって、いよーっ!まってましたぁ!となるのだけれど)。

北川景子はとてつもない金持ちなんだけど、よくわからないのが、彼女の上司も日本有数の資産家の息子なのである……なぜ大金持ちがふたりもおなじ部署に……その設定でよかったのか?………

現場にスポーツカーやリムジンでやってくるふたり。上司である椎名桔平は金持ちであることを存分にアピールしているのだが、北川景子は逆にそれを隠して捜査する(リムジンはどうしたとなるが、すこし離れたところから歩いてやってくるのかな……)。そこまではよしとするが、なんで北川景子はお嬢様であることを隠しているかというと、つぎの伏線のためである。

なんと、北川景子はディナーを喰ったあとに事件を解決し、そのままのいきおいで容疑者の家にむかうので、いわゆる警察の恰好ではなく、どちらかというとドレスをまとったお嬢様ルックなのである。

執事を連れてくるので、容疑者もさすがに「あなた誰なんですか?」とおどろきをかくせないが、このとき容疑者は彼女のことを「あ、昼間いた刑事だ」と認識しているのだろうか?もしそうじゃないとしたら、事件のことをやたらと知ってる小娘として、もっと「こいついったいだれなんだ?」感を出さなければいけないだろう。ましてや事件に関係ない人間にせまられたところで、なんでそいつに自供しているのか?刑事相手でも喰ってかかる犯人がいるというのに……

一応上司にも身分を隠しているので、犯人が自供したことを電話で報告し、自分はさっそうと事件現場からすがたを消す。ここからが、北川景子が身分を隠しているという伏線の回収になるのだが、なんと上司は容疑者の家から立ち去る北川景子の真のすがたを見てしまう!!

ここでどうなるか?こともあろうにこの上司は、このお嬢さま姿の北川景子に恋をしてしまうのである!!!しかもどこかのお嬢さまとして!

お前の目は節穴か!仮にも刑事だろ!なんで自分の部下だと分からない!

元々この上司はとてつもなく仕事ができず、バカだという設定になっているので、そこも分かってくださいねーということなんだろうが、さすがにこの展開には空いた口が塞がらなかった。というか、三話目で「え?こいつ、部下とお嬢さまが同一人物だって気づいてねーのか?」と逆に気づいたくらいである。正確にいえば、そこまでそういう設定になってたのかということにぼくが気づかなかったということなのだが。

それだけじゃなく、北川景子は箱入り娘として大事に大事に育てられているので世間の常識や犯人の動機に関して理解できないという設定である。故に男女のもつれや金銭のトラブルが殺人になり、いくら執事が説明しても「なんでそんなことでいちいち人を殺すの?」の一点張り……

そんな犯人の動機も理解出来ないようなら警察やめちまえ!!

この通り、山ほど破綻しているわけだが、それをぜーんぶギャグとして処理しているのも破綻に輪をかけている気がする。基本的にマジメなシーンは皆無。そのギャグに引っ張られるかたちで演出もされており、頭のなかで考えてることがそのままセリフとして出てきたり、きゅうにコミックみたいになったり、これ見よがしの映画のオマージュ/パロディ、さらにスラップスティックな展開など、いったい何がしたいんだ?という雑多感がある。これを盛りだくさんと取ればそれなりにたのしいのかもしれないが、なんで盛りだくさんに感じないかというと、会話の間が悪く、テンポがないので、すべてのギャグが笑えないからだ。スベリ倒したギャグなど見るに耐えないのは承知の通りで、バラエティならスベリ笑いとして処理されるが、ドラマのキャラがそこまでのフォローを出来るはずもなく、張りつめた空気が部屋中を覆いつくすはこびとなる。

まぁ、ここまでは「イケメンパラダイス」や「メイちゃんの執事」で慣れているし、こういうもんだと割り切って観ることもできるが、ぼくがいちばん納得いかないのは、なぜ執事がお嬢さまのことを罵倒するのか?である。

百歩譲って「このふたりが気心知れた友人関係だった」とか「子供のころから知ってる幼なじみだった」ならまだ話はわかる。しかし、仮にも彼は執事。なぜ執事が仕えている主人のことをいきなり罵倒するのか?まったくわからない。原作に書かれているのかなと思い、原作を読んだひとに話を聞いたが、その理由も一切明かされてないという。

一応ぼくの知らない何かが見ている間に起きていたのかもしれないと、このドラマを観ていた後輩や母親をふくめ数人に「なんであの執事は主人のことをバカにするの?」と質問をしたが「何言ってんですか。ドSの桜井くんが見たいからですよー」とか「あれがギャグになってるんですよー」とか「私も桜井くんに罵倒されたい」とか「ああいう性格なんじゃないですか?」とか、わかったようなわからないような返答がきた。うーむ。モヤモヤする。ギャグでおもしろいと思ってるなら、ハッキリいう。ぜんぜんおもしろくないですよ。ええ。っていうか、もし社長秘書だったとして、社長が頭悪かったとしても「社長、あんたバカぁ?」って言わないでしょう。浅田次郎大先生の『壬生義士伝』だって、たとえ幼なじみでちょー仲良しだったとしても、身分がちがうことでこうも態度を改めないといけないのかということが書かれていますよ。まったく。

というわけで、思った通りのヒドいドラマだったわけだが、逆に「映画版観ようかなー」と後輩に言ったら「何いってるんですか!まだ観るべきものたくさんあるでしょう!『ワールド・ウォーZ』とか『パシフィック・リム』とか!」と本気でとめられたのでおっしゃりとおりだと考えを改めることにした。書き入れどきなので映画観る余裕ないんだよ。あと暑すぎる!ムキー!(と言いつつ、「ドラゴンズクラウン」とWii版の「ピクミン2」に大ハマりしているというのもある)