『凶悪』を想像すると肩すかしを喰らう『サニー/32』

サニー/32』をレンタルDVDにて鑑賞。
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いきなりだがこの作品、そのつくられた経緯というか成り立ちがすごい。

監督は白石和彌だが、リリー・フランキーピエール瀧のコンビに脚本の高橋泉出世作である『凶悪』のメンバーが再集結。しかも内容は「佐世保小6女児同級生殺害事件」を下敷きにした実録モノ。ここに当時NGT48のキャプテンとして卒業発表したばかりの北原里英(以後、きたりえ)と『愛の渦』でブレイクを果たした門脇麦が出るというのだから否が応でも期待が高まった。

当然、これだけの座組なので、女優志望だったきたりえがオーディションで役を勝ち取り、女優人生のスタートが切れると自信がついてNGT48を卒業することを決意した……そんなようなことだと思っていたのだが、蓋を開けてみると、そもそもまずきたりえ主演いうこと前提で企画がスタートしており(だから秋元康がスーパーバイザーとして名前貸しをしている)、本人に「どんな映画に出たい?」とたずねたところ「白石和彌監督作が良いです!」とリクエストしたからこのような形になったとか。

恐らくいままでNGT48のキャプテンとしてメンバーの選考から立ち合うなど、尽力した彼女へ秋元康なりのプレゼントだったのだろうが、それだけのことでこれだけのメンバーが集まるとは秋元康恐るべしといったところである。

で、その『サニー/32』だが、極寒の長岡で撮影された映像はすさまじく、あきらかに自然の天候をそのまま利用していることがよくわかる。雪山をほぼ下着同然の姿で走り回らされるだけでもキツいが、さらに強風吹き荒れる海辺で乱闘させられるなど、若松イズムを引き継いだ白石演出は容赦なく、そこでその寒さを実感している新潟県人にとっては地獄であることがまざまざと感じられる。

きたりえも当時はまだまだアイドルだったがNGなしといった感じで、それこそ『凶悪』コンビに『凶悪』でやられたようなことをやられる。あまりのすさまじい撮影に泣き出したり、監督を無視したりしたこともあったらしいが、それでも女優としては大切な宝物の一本になったと言っていたから本人としては充実感はあったのだろうと思う。そりゃそうだ。好きな監督に好きなテイストで撮ってもらったのだ、女優としてこれ以上の幸福はないだろう。

ただ、監督もアイドル映画として撮ったみたいなことを舞台挨拶のときに言っていたので、実録モノであるにもかかわらず『凶悪』みたいなものを想像すると肩すかしを喰らう。「好きに作ってください」と秋元康に言われたのか『凶悪』の監督/脚本コンビで製作されたとは思えないくらいノーブレーキで、本当はこういうのが撮りたかったのかと監督のもうひとつの一面を見たような気もした*1

キャスト全員が舞台挨拶で「登場人物が何やってるかわからないし、感情移入できないし、ラストまで観るとポカンとする」みたいなことを言ってるくらいで、まぁ解釈の余地が入り込まないくらい意味不明。「佐世保小6女児同級生殺害事件」に着想を得た話だが、それに「闇サイト殺人事件」を合体させ、それを被害者側から撮っている感じ。きたりえ以外のキャラクターのバックボーンが一切出てこないが、それもふくめて現代のSNSの状況などをレイヤーとして敷いているのかもしれない。

と、説明はしたものの、それでもわからないことだらけである。例えば門脇麦はなんであんな状況になってたんだ?とか、テレビもないようなあんな場所でWi-Fiとかどうしてたんだとか、ピエール瀧リリー・フランキーの関係性だとか、「セックスっす!」と言ってたカップルはなんなんだとか、きたりえがなんであんなに豹変したのか?とか、なんで身体から放電したり、電気に強いのか?とかいろいろ。

とはいえ、きたりえが言ってるように「展開が予測出来ない映画」であることは間違いなく、つまらない映画では決してなかった。『凶悪』のメンバーが再集結したわりに『凶悪』ほど盛り上がってない気もするが、異質なアイドル映画として観ればおもしろく観れるのではないかなと……まぁ、あんまり酷評しないでくれよ……きたりえがんばってるし、新潟ロケだし……

サニー/32 [DVD]

サニー/32 [DVD]

*1:ニセモノであるといわれたきたりえに本物だといって出てくる門脇麦の対立なんかは、オーディションで役を勝ち取りブレイクした「本物の女優」と、コマーシャルなプロデューサーの口利きで演技もロクにできないまま主演した「ニセモノの女優」の対比のメタファーなのかなと思ったりもして、なかなかわからないように凶悪なことするなと妙な深読みすらしてしまった次第