フリーという生き方

フリーという生き方 (岩波ジュニア新書)

フリーという生き方 (岩波ジュニア新書)

つい先日、フリーランスでいろんなデザインをしているぼくの友人が事務所を構える事になった。本当にビックリしたが、勢い余って「かっけー!あんた最高にかっこいいぜ! 」と伝えた。その後、そういう言葉をかけた事にちょっと後悔していた。それこそ、GReeeeNの「ただ「ありがとう」じゃ伝えきれない」と同じようなもんで、「かっこいい」という言葉を間違って取られないか?と懸念してしまったからである。

数年前に『セックス・アンド・ザ・シティ』というドラマが始まり、ヒットした。彼女達の生き方は多くのアラフォー世代に勇気を与え、下の世代にも憧れを与えただろう。かく言う私もこのドラマが好きで、会話を下ネタに特化するというのは賞賛に値するものだと思う。ただ、1つだけ納得がいかないのは主人公のキャリーについてだ。キャリーは主要の4人の中では異質でフリーライターである。彼女のコラムがナレーションとなり、それが狂言回しになってるわけだが、彼女はコラムを書き、本も出版しているが、別に本も死ぬほど売れてるようには見えない。ところがキャリーは強烈な散財を毎日している。それが本やらCDやらならまだ分かるが、彼女が買うのは、有名ブランドの靴や服であり、さらに有名なレストランに行っては、酒を飲み散らし、毎日男を吟味している。

サブプライムローンの成せる技なのか分からないが、フリーランスというのは安定とは無縁で、アメリカだから百歩譲って許される描写だとしても、日本ではこうはいかないと思う。もっと負の部分も見せなければならなかったんじゃないかと正直思った。これを見て「フリーのライターってかっこいい!」とか言うヤツが居たらそれこそ最悪で、フリーランスで生きる事がどれだけ大変なのか分かってるのか!大バカたれ!と後ろからどつき回してやりたくなる。そもそも学生がTVに出て来て、就職がどうのこうの言ってる時点で、日本人は安定を好む人種なんだなぁと常に思ってしまう。まぁ世間体もあるだろうが。

話を戻すが、その友人が上記と同じような「かっこいい」を感じてしまったら最悪で、そう捉えてしまったのではないか?という懸念があったのだ。ぼくがその友人に対して「かっこいい」と言ったのは、「いろんな見えない苦労があったと思うけど、それでもそこまで死ぬほど努力してきたんだから、そんなあんたがかっこいいぜ!」という意味だった。それを「かっこいい」で済ませてしまったのは間違いだったかもしれない。まぁ、少なくても「キャリーみたいでかっこいいね」とかいう腐った発言ではないという事だけは分かって欲しい。

岸川真さんというフリーランスの書き手がいる。岸川さんのブログを読んでもらえれば分かるが、フリーランスとはよほどの覚悟がないと出来ない事だ。自分が会社であり、自分が資本であり、自分自身ですべてを決めなければならない。それは会社に捕われないという良い面もあるが、それだけにすべての責任がすべて自分に返ってくるという事でもある。でも、なんとなく、その概念は分かっていても、フリーランスってどういう風になるの?とかどうすればフリーで喰っていけるの?と単純に思う部分もある。

そんな疑問に対して『フリーという生き方』はほんの少しだけ答えをくれるような気がする。「ほんの少しだけ答えをくれるような気がする」と書いたのには理由がある。

まずこの本は岸川真さんというフリーランスの人が、経験と失敗を包み隠さず、すべてをさらけ出して書いている。言えば、自分にとってかっこ悪い部分もすべて書いている。本の中で、自分がちょーしこいて、究極の失敗をしてるような事までぜーんぶ書いてある。もっと言えば、岸川さん自身が本の中で成長していて、自分自身が偉そうにモノを言う立場ではないという事まで分かってる気がするのだ。

これが、自分の成功例ばかり書いている本だと「そんなのはどうでもいい!」となるし、失敗した事に絶望するような事を書いていると、はらわた煮えくり返って、バカやろー!と本をぶん投げているところであるが、『フリーという生き方』は「オレはフリーランスで人間と関わりながらなんとか生きてる。フリーは死ぬほど辛いけど、いいところもあるぜ」と投げかけるように言ってる気がしてならないのだ。だからちゃんとした答えはないけど、少なくても、こういうのもあるという意味で、すごくタメになる。

編集者をしてるだけあって、自分自身を俯瞰するのがとにかくすごい。そして、教科書のようなものではなく。やっぱり楽しく読めるようになってる。石田衣良は「本の中だったら人の人生を生きなおせる」と言ってたが、まさに「フリーという生き方」は会社をクビになってフリーランスで生きてく事を決意した岸川真さんの人生を生きなおす本だ。

共感する部分が多々あり、「自己投資はブーメラン」と題したところでは思わず泣きそうになってしまった。私も本と映画と音楽に金をかけているからで、それでバカにされた事は幾度となくあるが、もう服になんて金かけないぞ!勝手に蔑めバカやろう!

そして、やはり人は1人じゃ生きていけないんすね。人とかかわりあう事がいかに重要かという事を改めて思い知らされる。この場合、教えられるのではなくて、思い知らされる事が重要なのだが。とにかく岸川さんが人との出会いに感謝する度に、泣いてしまうぼくが居た。同じ感動を岸川さんも味わってたと思うが。

それにしても『フリーという生き方』という本はおもしろい。3年は続くと言われてた売り手市場があっと言う間に買い手市場になり、リストラと内定取り消しが増え始めた今だからこそバイブルになり得るし、将来の不安や「これから先何したらいいだろう?」と思ってる若者に「まぁ、偉そうにモノを言う立場じゃないけど、こう生き方もあるぜ」と背中を押してくれてるような本である(岸川さん自身がどう思ってるかは分からないが)

さらにこの後に暴れ回るようなグルーヴ感を持つ『蒸発父さん』を書くわけだから、おもしろいなぁと思うが、ええい!こんな文を読んでるヒマがあったら、本屋に行け!と強く言いたい。『フリーという生き方』はこれからの時代に生きるための柔らかい指南書なのだ。

そして、この本を読んだうえで、改めて、その友人に言いたい。「あんた、最高にかっこいいぜ。」そして岸川さん。かっこ悪い部分も含めて、あんたも最高にかっこいいぜ。