ステーキけんの社長にも見せたい『マスターシェフ』

最近『マスターシェフ』という料理番組にエラくハマっている。

FOXのBS238チャンネルが無料放送で、たまたま朝に再放送していたのを家族が見ており、ものすんごいおもしろい番組がある!と話を聞いたら、ホントにそんな番組があるのか!?というようなビックリする内容で、いまでは録画したものをかならず二回以上は見ている始末だ。

本放送は木曜日の深夜0時からだが、その後、土曜日と火曜日に再放送があり、一週間に三回も放送していることになるので、かなり人気はあるんだろう………とは思う。アメリカの番組なのだが、動画を検索すれば、世界各国の『マスターシェフ』にたどりつくので、日本だけなじみがないのかもしれない。

『マスターシェフ』は賞金25万ドルと“マスターシェフ”の称号をかけて、料理が得意な素人が戦うというシンプルな内容の番組である。

彼らの料理を審査するのは3人。ひとりはところかまわず暴言を連発するゴードン・ラムゼイという三ツ星シェフ、もうひとりはシカゴではじめてビストロ的なレストランを広めたとされる、タトゥーがびっしり入ったデブのグラハム・エリオット、そしてもうひとりがニューヨークで最も有名なレストランを経営するハゲのジョー・バスチアニッチ。

基本的な構成は「野菜を使った料理」や「ラムを使った料理」などお題がだされ、制限時間内にお題にそった料理をつくる。審査員にえらばれたものが、次の戦いを有利にすすめられ、二回戦目で最下位にえらばれたものが脱落していき、勝者は次のステージへとすすむ。

もうひとつは前のステージで勝ったふたりがそれぞれリーダーとなり、ひとりひとりメンバーをえらんでいき、何百人が待つ会場で料理をするというチーム戦がある。当然、負けたチームはチーム内のメンバーでふたたび戦うことになり、その料理が審査員によって最下位に選ばれると脱落する。

この番組がおもしろいのは参加者のインタビューを本編にはさみこみまくっているところ。

人間関係の縮図みたいなものが凝縮され、とにかくエグい。「あいつは才能もないくせに思い上がりやがって」 「私はあの○○の態度が気にくわない」 「あいつはオレの話をとにかく聞かなくて、女王様気取りでいやがる」など悪口ばかり。当然ながらFワードもガンガン飛び出すので、口元にはモザイクとピー音がひんぱんに入る。チーム戦で足を引っ張るものが現れれば、「間違いなくあいつのせいで負けた」となるし、その原因になってるヤツも「リーダーの指示が悪いだけで、オレは悪くない」などさんざんである。

口が悪いのは参加者だけではない。審査員も同様だ。お題にそってないものや、まだ完成してない料理を出そうもんなら、「こんなクソをオレに食べさす気なのか?」 「これはなんだ!?まるで犬のクソじゃないか!」「なんてこった!最悪の気分だ!これはケツの皮なのか!?」 「こんな最低のクソをオレのキッチンから出すとはな!」など容赦ない。自殺するまで追いつめられるんじゃないか?と思うほどに参加者の前で死ぬほど恥をかかされるのだ。

ミスター味っ子」的な試合展開に、罵詈雑言の雨あられと参加者同士の腹のさぐりあいが加わってるので、それだけでおもしろいわけだが、実はこの番組で審査員が参加者に言ってることは至極まっとうであり、料理人として最低限守らなければいけないことを口汚く言ってるだけにすぎないのだ。

生焼けのラムを出した参加者には「食べる人の健康を害するような料理を出すなんて問題外だ、なんだったら今すぐ放り出すぞ」と脅すが、それは料理人というよりも、人として当然のことである。

ある料理を食べて、それをコピーするというお題で、全然盛りつけからなにから違うものを作ってきた者に対しては「客が同じ味を求めていったなのに、違う味が出てきたらどう思う?」とやっぱりまっとうなことをいう。

時間内に仕上げることができなかった者にたいしては「君たちには最高の食材と環境と与えてるのに何故未完成のものを出すんだ!?」というが、当然レストランを経営するとなったら、時間をかけて料理したうえに、未完成のものをお客さんに出すなんてことは絶対に許されない。審査員はひんぱんに「味見をしたのか?なぜしてないんだ!?」というが、それも同様だ。

つまりこの『マスターシェフ』という番組は料理で戦わせるだけではなく、料理人としての心構えや基礎を徹底的に学ばせる番組になっているのである。

罵詈雑言の雨あられと書いたが、とてつもなく上手に出来たら「これは筆舌につくしがたい一品だ。もはや芸術品だ!」 「これはオレのレストランでも出せる一品だ!」 「最近食べた料理の中でもピカイチだ!」 「これぞ模範となるべき一品。プロの料理人でも困難なことをキミは成し遂げた!」など、引くほど褒めちぎる。良い物は良い、ダメなものはダメとハッキリ公平になんのひいきもなく言うのも好感を持った。しかも素人の料理を審査するのは超一流のシェフたちである。こんなチャンスは滅多にない。

というわけで、一度ダマされたと思って見ていることをおすすめしたい。最近、どっかのステーキの社長が肉を調理台にそのまま置いたり、ユッケで人を殺したり、客に文句ばっかり言ってた店が食中毒出したりと飲食業界もさんざんだが、このひとたちにもルドヴィコ療法のようにこの番組を見せたいものだなぁと思った次第だ、あういぇ。