これからタランティーノみたいな人がいっぱい出て来ると思う

アゲイン<SHM-CD>

アゲイン

まだ家にパソコンが無かった頃、バッファロー・スプリングフィールドというバンドに興味を持った。当時はっぴいえんどに狂っていたぼくは、はっぴいえんどが何だったのかを知りたくて、松本隆の著書をブックオフで探しまわって購入した。詩集だったと記憶しているが(というのも、紛失したらしく、手元にないので確認出来ない)、そこにモビー・グレープとプロコル・ハルムバッファロー・スプリングフィールドという名前が出て来て、あのはっぴいえんどサウンドを形成したバンドが居た!と興奮した。

ところが、そこからが大変で、車の免許も持ってないガキんちょだったぼくは、そのCDを自転車で探しまわった。今でこそビートルズのアルバムが全部レンタル出来る時代だが、当時はビートルズでさえ赤盤と青盤くらいしか置いておらず、当然バッファロー・スプリングフィールドなどあるわけない。ツタヤの販売などたかが知れてるので、最初から当てにはしておらず、まずは今は亡き万代のヴァージンメガストアへ向かった。

必至でチャリを漕ぎ、店に入って、“ROCK&POPS”の「B」のところを見ても、バッファロー・スプリングフィールドのCDは一枚も無い。側に居た店員を見つけて声をかけた。

「あのーバッファロー・スプリングフィールドっていうバンドのCDを探してるんですが」
バッファロー・スプリングフィールド??……」
「えーっと、ニール・ヤングが在籍してたヤツなんですけど」
「あー!はいはい!ちょっと待っててくださいね」

――――待つ事3分。

「お待たせしましたー、そうですねぇ、当店では在庫は無いですねぇ、お取り寄せという形になってしまいます。」
「そうですか、分かりました、だいじょぶです」
「すいませーん、お願いしまーす」

――――死ね。

次に向かったのは、これまた今は亡き石丸電気である。

石丸電機にはバッファロー・スプリングフィールドはある事にはあったのだけれど、あったのは3枚目のアルバムで、ぼくが当時聴きたかったのは最高傑作と言われている『アゲイン』だった。店頭に出てないという事は無いと判断し、最後に行ったのは、これまた今は亡きHMVである。

HMVには――――やっぱり1枚も無かった。もはや店員に聞く気力すらなかった。

HMVになければ諦めるしかない、結局バッファロー・スプリングフィールドの『アゲイン』は数年後にツタヤでレンタルされるようになって、それでやっと聞けた。


最近、ブログを見ていると、音楽や映画に精通している人が増えたなぁと思う。しかもそれに文章のセンスが加わって読み物としておもしろく、しかもぼくよりも年が若かったりして、そのブロガーから学ぶ事もかなり増えた。

確かに、オタク気質な人にとってネットというのはたまねぎ剣士にオニオンソードを持たせるようなもの。今は情報を得るスピードがとにかく早くなった。googleに「バッファロー・スプリングフィールド」と打ち込めば、CDを買ってライナーノーツを読まなくても、一体どういうバンドだったのかというのはすぐに分かるし、youtubeに「Buffalo Springfield」と入れれば、もう代表曲と呼ばれるモノは視聴とかいうレベルではなく、映像付きで、最初から最後まで無料で聞ける。ネットが無い時代であれば、吸収こそ出来るのだけれど、上記のように吸収するまでの時間が非常に長い。さらに今はレンタルも充実していて、ネットで無料で聞けるのも多くなったが、当時は2500円くらいするCDを買わなければならなかった。当然、一度に何枚も買えるわけなどないので、大人にならないと音楽に関する探求など出来るわけもない。今だったら2500円もあれば、メディアパワーで25枚のアルバムを借りる事が出来る。しかも、iPodが登場した事で、タバコの箱よりも小さい機械に、アルバムを何百枚も入れれるようになり、それを持ち運んで聞けるという――――なんという時代だろうか。

そこで自分にとって「これは必要」「これは必要じゃない」という判断が即座にされ、その若さ故にどんどんどんどん吸収されていく。そして、それが血となり肉となって自分を形成していく事になる。タランティーノもそういう人だったが、その自己形成が今の時代の人は一昔前の人よりもずいぶん早いんじゃないだろうか?

――――こないだ、キャンプに行く時に車の中で9mm Parabellum Bulletの『VAMPIRE』をまともに聞いて、そんな事を思った。

ダサいモノとバカなモノとかっこいいモノのチョイスの仕方が、絶妙で、それこそ昔だったら、こういう音楽性をやってたのはミッシェルとかイエモンだったはずだ。古くて新しいダサかっこいいロック。ところが9mmはまだ若い。デビューして間もない、というか結成して間もないバンドだ。それこそ、情報を得るスピードと吸収の仕方が今のネットを駆使したもんなんだろう。

9mmが新世代のロックと呼ばれるのは、そういうところにあるんじゃないかなぁと、なんとなく思った今日この頃であった。あういぇ。

VAMPIRE

VAMPIRE

【追記】キャンプの道中ではPerfumeの『トライアングル』も聞いたんだけど、それはまた今度。