THE WORLD IS MINE

数年前に日経エンタテインメントという雑誌でiPodというものがあることを知った。

常にCDを大量に車に積んでいたぼくにとってそれはとてつもなく魅力的な機械であった。まだ家電量販店に並んでいないときであったが、すぐさまパソコンの専門店に行き購入した。

とても便利だなぁと思い、すぐに番組やらなんやらで取り上げられ大ブレイクしたが、ぼくがその中でも機能として特出しているなぁと思ったのはシャッフル機能である。

5000曲なり、10000曲のライブラリをごちゃ混ぜにする――――もしくは、厳選した曲でプレイリストを作り、それをシャッフルさせる。死ぬほど好きな曲、あまり聞かなかった曲、それこそまったく聞いたことがないような曲がおもしろい順番で飛び込んでくる新鮮さ。それは音楽を聞くことの喜びを改めて分からせるような機能であった。実際、iPodshuffleが出たくらいだから、シャッフルが楽しいと思う人がたくさんいたということだろう。

iPodのシャッフル機能は、たまに驚く様な曲順でこちらの気分を高揚させてくれる。どんな音楽を入れてるかにもよるが、ロック、プログレ、フォーク、ブリットポップ、ダンス、クラシック、エレクトロニカ、ポップス、絶妙な曲順で名曲がこちら側を刺激してくれる。それは聞いてるこちら側に、音楽が好きなんだと改めて思わせてくれたり、音楽を聞くことの喜びを実感させてくれたりもする。

もし、そんなサプライズや感動を一枚のアルバムで、さらにひとつのバンドで体験出来たら、どんなにすごいだろうと考えたことがあった。ひとつのバンドはひとつのサウンドスタイルを持ち、そのバンドにしかない音像をひとつのアルバムで展開する。あのビートルズですらそうであった。だが、ぼくはそんなユニークなアルバムにリアルタイムで、しかも日本のバンドで出会うことになる。それがくるりの『THE WORLD IS MINE』である。

THE WORLD IS MINE

THE WORLD IS MINE

実はこのアルバム、初めて聴いたときはまったく好きになれなかった。それは恐らく、くるりというバンドに対するぼくの勝手な解釈が生んだズレのようなものだったと思う。だが、当然ながらキラーチューンやシングル曲も含まれていたため、好きな曲もそこにはちらほらあり、聞き込むにつれてどんどん魅了されていった。自分の中で首を傾げるような曲にも音に対する異常なまでのこだわりを感じた。

音楽的な幅もかなり広い。これ一枚にギターロック、フォーク、ダンス、アンビエント、サイケ、プログレ、クラシック、ダンス、民族音楽など楽しいと思える音の世界がギッシリ詰まっている。音の世界が広がるだけでなく、ビーチ・ボーイズの『ペットサウンズ』のように、海、太陽、夜、街など、自然から日常までも音から感じれるから不思議だ。

このアルバムは『キッドA』にもなり得るし、『モーニング・グローリー』にもなるし、『狂気』にもなるし、『サージェント・ペパー』にもなる。それだけ幅が広いのに基本はポップであることも忘れてならない。最初からくるりを聞き続けた人にはいびつに聞こえるかもしれないし、がっかりしたかもしれない。だが、このアルバムは聞く人を魅了する力がある。当然ながらこの曲順でなければならないし、この音楽性でなければならない。ぼく自身くるりの最高傑作は『NIKKI』だと思うが、これはある意味でくるりというバンドが持つアティテュードを聞き手に届けることに成功した到達点的傑作だと思う。

ちなみにTwitterにて「とてつもない偏見ですが、恵まれた青春を送ってない人はスーパーカーの1stと中村一義を聞いてるみたいな(笑)」というレスをしたのだが、このアルバムもその中のひとつではないかと……

あとこのアルバム作った本人は時が経ったらあんまし評価してなかったりするんだよなぁ……不思議だ。あういぇ。


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↑このときのメンバーがとにかく最高。