ドラマ『ストロベリーナイト』がおもしろかった件

昨年大変話題になり、新潟では年始に再放送された『ストロベリーナイト』を観た。

女刑事を主人公にしたドラマはたくさん制作されているが、流れとしてはこないだエントリにした『リーガル・ハイ』と同じで、なんとなく録画して、なんとなく観たらまぁハマったハマった。ぼくの中でどうでもいい存在だった竹内結子の株がぐーんと上がったし、西島秀俊との関係もすごく良い。姫川班と呼ばれている役者のアンサンブルだけで楽しく観れるので全部のシーンに飽きることなく、こちらが求めているチーム感/クルー感みたいなものを全部演出でカバーしているというような印象すら受けた。武田鉄矢の悪役っぷりも新鮮であった。

リーガル・ハイ』ほどのクオリティはないが、全話安定したおもしろさを誇り、すでに放送される頃には撮り終えていたというからその本気さが伺える。というわけで今回もパイロット版+テレビ版+スペシャル版全部の感想をつらつら書いていこうと思う。


パイロット版(後にストロベリーナイトレジェンドと改題して再放送された)」

この頃から演出の方針が固まっている。殺人のシーンはあたかも押井守のペラペラ実写アニメ(『立喰師列伝』的な)で残酷かつスタイリッシュに決め込み、残虐なのをやわらげるだけでなく、犯人が人を人と思わずに殺してる感覚がそのまんま映像化されたみたいで良い。元ネタがどっかにあるのかもしれないが、このアイデア一発とエグい内容にまっこうから挑んでるのは評価したい。レイプシーンもあるし。んで、お話なんだけど、人が死ぬシーンが唐突で驚かされるし、リアルだし、よくよく考えると武田鉄矢ステレオタイプすぎるだとか、いくらなんでも日本でやるにはスケールというか、アメリカ的すぎやないかい?など懸念すべき点もあるが、刑事ドラマとしてはとにかくフレッシュである。竹内結子がとにかくハマり役。


第1話「シンメトリー」

実はパイロット版からそうだったのだが、まるで第2話からスタートしているかのようなはじまりかたがおもしろい。ただドラマってのは何気なくつけてたら気になって最後まで見てしまって、それが5話目くらいであっても最終回まで見てしまうというケースもあるので全然アリなんじゃないかと。そんなことはさておき。観た絶対数が少ないので浅い意見だろうが、まず思い出したのが『沙粧妙子』であり、恐らくそこからの『ケイゾク』や『QUIZ』の系譜に位置づけられるのではないかと。世代じゃない人にとっては「ちょいホラーでスタイリッシュな刑事ドラマ」という感じで新鮮に映るんだろう。テレビドラマにしてはワンカットが長いシーンが多く、すごく映画的。キューブリック的表現を使った『羊たちの沈黙』って感じで楽しめた。もしかしたら姫川のモデルはクラリスなのかも。


2、3話「右では殴らない」

タイトルだけ聞くと「はて?」と思うかもしれないがラストで納得。スケールはデカイが途中からしぼんでいき、犯人もわりとすぐに分かってしまうのがパイロット版との作り込みの違いか。竹内結子カラオケボックスでの尋問で「演歌でも歌えば?」とおばさん扱いされ、その後、部下に「何か歌います?」とイジられるシーンで笑った。クライマックスの竹内結子の演技は神がかっており、圧倒的な存在感でベテラン勢を黙らせる(シーンでの立ち位置と一致するあたりうまい)。愉快犯の犯行ってのがよかったんだけど、これアメリカだったらもっと犯人は狂った感じになってるよなぁとも思った。


4、5話「過ぎた正義」

「殺人を犯したヤツなんて死んだって構わない」という思想の刑事の息子が付き合っていた彼女を殺したことで逮捕。息子に娘を殺された父親がその復讐にと刑事の妻を殺害するという憎しみの連鎖がメイン。あげくヴィジランテものでもあり、殺人を犯したにもかかわらず刑期が軽かったヤツらがドンドン殺されていくというのが話のとっかかりだが、いかんせんそれが途中からなかったことにされてしまう。4話はものがたりの最初がラストに直結するなどいわゆる『カリートの道』的展開で5話は時間軸がずらされている。クライマックスは「あー、間に合うの?間に合わないの?」的な展開ながらやや弱かったか。それでもかなりおもしろかったが。役者のアンサンブルが強度を増し、姫川班が本当の姫川班として機能しはじめてるように感じた。


6話「感染遊戯」

パイロット版や第1話の監督さんが撮っているんだけど、そのカラーを感じないほど地味で言ってみりゃ一話完結の形態にありがちな中盤の箸休め――――悪く言えば捨て回。人間関係も視聴者が分かってることを尺を取って説明するなどあまり前進せず、ただ竹内結子西島秀俊のかっこ良さが際立つので両者のファンは濡れること必至。ハードリカーをあおった直後に事件が発生し、現場に向かうのに酔いを醒まさなきゃいけないので、水を一気飲みするというシーンがリアルだった。


7、8話「悪しき実」

6話同様演出は地味。右半身だけ死後硬直が遅いという変死体(一見自殺に見える)が発見されて……というイントロダクションが素晴らしく。ミステリー色は強め。ただ、暴力団に飼われている殺し屋とそんな彼を愛してしまった女……というのはこれ単品で作品として成立するわけで、それを警察側から描いたことでミステリーに昇華しているあたりうまい。しかし、そういうプロットはまぁあるっちゃあるわけで、結局中盤くらいから物語の全貌が見え始めてしまうのが惜しい。しかも姫川は基本的に勘を頼りに動くからそれが当たるとその時点で推理の決着がついてしまい、あっさり犯人も動機も分かって、中盤から一気に失速する。そう言った欠点もやや目立った回だったかなと。もちろんおもしろいのは大前提。


9、10、11話「ソウルケイジ

この回があったから連ドラ化したのではないかと思うほどの完成度を誇る大傑作。複雑に絡む人間関係と動機。スタイリッシュに演出される「死」のシーンにいきなり切断された左手がどアップで映るなど挑戦的。それだけじゃなくじっくりと描写する役者の演技にグイグイ引き込まれ、大凡テレビドラマとは思えないスケールと話の広がりに大感動。今まで駆け足すぎるかなーと思っていた謎解き部分も今回は3話にわたっているのでミステリーとしての醍醐味も味わえ、さらに衝撃的なラストが妙な余韻を残す。『ストロベリーナイト』を観るならこれだけで充分と言いたくなるほど。スタッフも手応えあったんじゃないかなぁ。


ストロベリーナイト アフター・ザ・インビジブルレイン

映画公開日に放送されたスペシャル版。2時間もあるのか!?と思いきや全5話から形成されるオムニバス。登場人物それぞれに焦点をあてているので、スピンオフっちゃスピンオフだが、ちゃんと「ストロベリーナイト」になってるのはすごい。もう何度も作られてるからこそのチームワークなのだろうか。もしかして殺された男は超能力者だった??っていう話がなかなか怖いオチでよかった。っていうか、超能力者なのにそれを活かしきれない人生ってのもなかなか……


というわけでドップリとハマってしまったわけで、映画版も観にいく所存である。メディアミックスにやられてるなぁ……

ストロベリーナイト Blu-ray

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