ドラマ『リーガル・ハイ』がすごくおもしろかった件

昨年大変話題になり、新潟では年末年始に再放送された『リーガル・ハイ』を観た。

新年早々映画も観ず、ブログの更新も滞っているのは年末年始に各局で放送された特番を片っ端からやっつけていたからであり*1、もはや5時間スペシャルなどが当たり前になりつつあるこの昨今。見続けた先に何も残らないと分かりつつ、せっかく録画したんだからと4日前くらいまで、延々と見続けていた。ブルーレイに焼きつつ、HDDも整理して、ようやく腰を据えて映画でも観ようと思ったが、一気に全話録画した『リーガル・ハイ』をあとで観るようにHDDに残しておくべきか、それともCMを抜いてブルーレイに焼くべきか悩み、結局一話だけ観てから決めようと思ったのだが、これがすんごくおもしろく、結局二日間かけて全話観てしまった。ドラマはほとんど観ることがないので*2、他と比べられないのだが、2012年度の人気ドラマランキングで4位*3につけているのも納得である。

ストーリーは堺雅人演じる負けなしの弁護士:古美門研介と、ひょんなことから彼の元に転がり込んで来た新垣結衣演じる新米弁護士:黛真知子が対立しながらも絶対に勝てないと思われている裁判に挑んでいくというもの。

昔から「なぜ映画は監督で語られ、ドラマは脚本家で語られがちなのだろう」と思っていたのだが、この作品を観てそれがようやく分かった。ドラマというのは往々にして画で語る娯楽ではなく*4、セリフで語るものなので、それがうまいかヘタかでその作品のすべてが決まってしまうからだからだ。そこからいくとこの作品のセリフ回しはピカイチである。スクリューボールコメディというジャンルがあるが、あれを法廷モノに組み合わせた感じで、クラシカルではあるし、方法論としては斬新ともいえる。映画のオマージュもふんだんに登場し、映画好きの方々にアピールするというところもニクい。脚本家は古沢良太という方でまったく知らなかったのだが、今まで書いた作品群を観て納得。かなりのヒットメーカーであり、ぼくの大好きな『探偵はBARにいる』の脚本も手がけていた。

それよりもこの作品の各話の完成度の高さたるや恐ろしいもんがある。見続けて行くうちにどんどんおもしろさが加速/更新されていくというのはかなり珍しいのではないか。あまりにすべての作品がおもしろかったので、総括することができない。故に全話の感想をこれから書いていこうと思う。ネタバレはない。


【第一話】
仕事ができないという理由から上司にいびられていた青年が、その上司を殺害したとして逮捕された。無実を訴える青年を助けたいという一心で黛は弁護を担当するも敗訴。しかしどうしても諦めきれない彼女は無敗の弁護士、古美門研介を紹介されるが、彼は正義や人権など関係ない、正義は金で買えるというとんでもない人格破綻者なのであった……

電車で出会った人がその後偶然会ったり、いれこんでる中国人女性との関係性が明かされなかったり、そもそもなんでガッキーを堺雅人が雇うことになるのかの意味など、こういうドラマにしたいがための無理な設定がかなり目立つ。しかし、恐ろしいくらい小気味良いテンポで見せてくれるので、どんどん先が気になって、あっという間の45分だった。果たしてこれでよかったのか…という初期『トリック』のような後味の悪さもスパイスになり、コメディになりすぎてないのも良い。何よりも権力を振りかざしてるクソ野郎共がこれでもかとやりこめられる様は爽快。合法的な『ファイトクラブ』や『フォーリング・ダウン』という感じでその手の作品が好きな人にもおすすめ。


【第二話】
JPOP界を代表する大ヒット作になった曲「あれは恋でした」。これを聴いたパンクバンドのボーカル荒川ボニータが「あ、これ私の曲だ」と盗作容疑で訴えを起こすという話。

「どこからどこまでがパクリなのか?という著作権の問題から、温故知新で作品を作ることと湧き出る才能の対比。さらに秋元康をモデルにしたと思われる音楽プロデューサーに対する痛烈なディスがあるが、それを糾弾していいのか?という目線や、音楽とは何か?という定義など、ひとくくりに出来ないテーマが随所に詰め込まれている。

「制服が脱がされたとかブルマ履き忘れたとか、そんなロリコン丸出しの歌しか作ってない人にこんな歌が作れるわけありません」というセリフに笑うが、これは明らかにAKBをプロデュースしてる男が「川の流れのように」を書けるわけがないという揶揄である(実際「川の流れのように」は吉田拓郎のパクリなんじゃないか?という節がある→http://d.hatena.ne.jp/katokitiz/20120226/1330260778)

今回はそのテーマだけでなく、ドラマ性も豊かであり、なおかつとてつもなく笑えるというのがポイント。何カ所か思わず声に出して笑ってしまったシーンがあった。

なによりも一話以上のハイテンションで攻めまくる堺雅人の演技が完璧で、ガッキーがそれを引き立たせるように、徹底した引き算演技だからバランスが良くもたれない。


【第三話】
『卒業』のダスティン・ホフマンがもしストーカーだったら?というお話。

その発想がそもそも素晴らしいのだが、第一話同様、この回自体はとてつもない後味の悪さで、一応のフォローがあるものの、見終わったあとは確実にモヤモヤするだろう。

堺、新垣、両者の二つの案件を同時に進行させて行くという離れ業で、ウエットになりすぎずスピードアップさせ、さらに堺パートが荒唐無稽でそんな裁判勝てるわけねーだろ!というものを無茶な理屈で成立させていく経緯がおもしろい。

ただ、ストーカーをテーマにした話にしてはやや美談にしすぎてるきらいがあり、実際本当にヒドい被害にあっている人もたくさんいるはずで、そういう人たちからするとありえないわ!と怒りを招きかねない。


【第四話】
高層マンション建設とそれに反対する住民というよくある話。最初は新垣に住民側を弁護してほしいと頼まれるが、いろいろあって建設会社側の弁護をするハメにという設定がおもしろい。

よくある設定を使っているだけに、今回のテーマはかなり重厚だ。ずばり弁護士の仕事とは?正義とは?法とは?をありとあらゆる角度から問いかける。

基本的に登場人物の言ってることのすべてが正しく、そしてすべてが間違っているというバランス感覚がとにかく素晴らしい。ほぼ笑いなしのシリアス回であるが、ラストの一言でそれまでのビターな雰囲気を一蹴する気の配りよう。個人的には神回。

大和田伸也里見浩太朗が共演するシーンで『水戸黄門』オマージュが見られる。


【第五話】
政治献金を不正に受け取ったとして、次期総理大臣候補の大物政治家が逮捕された。なんとか実刑を免れたい彼は、法外な料金をふっかけるも、必ず勝訴するという噂を聞いて堺雅人を自宅に呼ぶのだが……という話。

一見凝ったストーリーに思えるが、テンションはやや低めであり、個人的にはそこまで感銘を受けず、さらには登場人物の関係性なども進展するわけではないので、ある意味では捨て回ともいえる。しいて言うなら堺雅人が新垣に激昂するシーンが楽しいくらいか。


【第六話】
芥川賞を受賞した人気作家と人気キャスター。誰もがうらやむ理想の夫婦だったが、その関係性はすでに破綻寸前。財産分与に関しての裁判を作家が堺雅人に頼んでくるという話。

前回と同じ人が書いたとは思えないほど話が凝っていて、離婚の話と思いきやミステリーっぽく見せるのが特徴。そのオチやドンデン返しも含め、いわゆるこれぞ『リーガル・ハイ』というべき神回。スピード感もかなりある。

ゲストに鈴木京香が出てくるが、とてつもないセリフの量を早口でしゃべらされ、さぞ大変だったであろうと思った。堺雅人の方が遥かに大変ではあるが……


【第七話】
田舎で醤油を作っているお店の遺産相続についての話。遺言状が三枚あり、それを長男、長女、次男がそれぞれ持っているということから、一体どれが本当の効力があるのかについて裁判が繰り広げられる。

古畑任三郎』のラストスペシャル同様、誰がどう見ても見事なまでに『犬神家の一族』のオマージュになっており、「しまったぁぁ!!」や衣装など堺雅人が徹底して金田一耕助になる。

ストーリーはひとひねりもふたひねりもしており、最後の最後まで一瞬たりとも見逃せず、オチも大変素晴らしい。人間ってのはいったい何を考えてるのか分からず、実はとても恐ろしいという全話共通のテーマがよりシャープになっている。

里見浩太朗伊吹吾郎が共演するシーンで『水戸黄門』のイントロが流れるというお遊びも健在。もはやここまで来ると安定したおもしろさを誇る。


【第八話】
超有名子役が急性アルコール中毒で倒れるがこんなことになったのは過剰に働かせる母親のせいだと、社長でありマネージャーでもある母にたいし親権停止の裁判を起こすという話。

いわゆる昨今の子役ブームに押尾学の事件を組み合わせたような、非常に作品にするには危険な領域まで踏み込んだ回だが、大傑作。堺雅人と天才子役が同じ価値観を持ってるということで、そのかわいらしいやり取りを見るだけで楽しく。いろんなところにインタレスティングを仕込んでいるんだなと感動すら覚える。

後半、裁判官に心象を訴えるシーンは登場人物すべてが名演技を披露。特に堺雅人のテンションはすごい。

中村敦夫が登場するが、彼の自宅の電話の着信音が「だれかが風の中で」というお遊びあり。神回。


【第九、十話】
大手企業による公害問題。絶対に勝てない裁判と当初は引き受けるのを拒むが、それにはある理由が……という話からはじまる、壮大な二話構成。

七人の侍』のオマージュがあり、そういう話なのかと思いきや、基本的には『エリン・ブロコビッチ』とストーリーは一緒。堺雅人と似たようなキャラクターが登場し、盛り上げるなど、シリーズ総決算のきらいがあるが、なんといっても第九話の後半8分半にわたる、他に類を見ない例の「あの」シーンがとてつもなく。あまりのすごさに何も書けないほど。なるほど、みんなが絶賛するわけだよ……思わず涙出た。

第十話。色気がないという設定の新垣に対し「あーあ!!!長澤まさみだったらなー!!!!」というシーンが衝撃的で、固有名詞が出てくるだけでも珍しいのに、それを類似女優である人にぶつけるというのがすごくおもしろかった。やるなぁという感じである。

ハッキリ言ってこの作品。これで終わっても問題ない構成でラストなんかはそのまんま最終回とも言えるような終わり方で、もしかしたらホントは十話で終わる予定だったんじゃないかと妙な邪推をしてしまう。


【最終回】
一応十話の続きというか、後日談。不当解雇を巡り、堺雅人新垣結衣がついに法廷で対決する。

これまでの話がなんだったのかってくらい無駄が多く、クソみたいな説教が延々続き、作品のクオリティを下げかねないほど前半はホントに最低。それこそさっき書いたように、無理矢理作ったんじゃないかと思わせるくらいボーナストラック感が強い。ところがラスト。気持ちいいくらいの大ズッコケですべてをチャラにする。前回の終わり方も含め、どうしようもない作りの前半などすべてがホントに計算だとしたら、古沢良太は天才でも鬼才でもない。モンスターである。

それでもやはり、冒頭のソフトフォーカスによるシーンの意味の分からなさ(夢なのか幻想なのか本当なのかよくわからない)や、登場人物の関係性などいろいろと腑に落ちない点が多く、土壇場で編み出したアッカンベーなんじゃないのかな……という気も。ぶっちゃけ別に見なくてもいいかなと個人的には思っている。

中盤、いきなりブルース・リーオマージュが炸裂し、堺雅人が完璧な構えを見せるのには感動した。さらには主題歌を歌っているえれぴょんがゲスト出演。

ちなみに最終回を見たあとに第一話を観ると、物語の始まりからしかけがあったんだなということが分かるので、やはり計算なのだろうか……


というわけで、長々と全話について書いたが、DVD–BOXは昨年の12月に発売されたようだ。レンタルもされているだろうから、もし気になったら手に取っていただきたい。特に映画好きの方におすすめである。

リーガル・ハイ DVD-BOX

リーガル・ハイ DVD-BOX

*1:あと飲み会とアホみたいにハマっているドミニオンというカードゲームのせいでもある

*2:ぼくは基本的にTVは大好きだが、バラエティオンリーでドラマは一切観ない。ラブストーリーを率先して見ない、画で語らずにセリフのみでほとんど物語が進行されていく、そもそも画がしょぼい、全話観るのに時間がかかりすぎるなど理由はいくつかあるのだが、最大の理由としてあげられるのは観た後の満足感がそれほど高くないというものである。今まで数少ないながらもドラマを観てきたが、見終わったあとに「いやぁおもしろかった!」というもんがぼくにとってはあまりなく、去年観たのも『鍵のかかった部屋』だけで、それも見終わったあとに、いやぁめちゃくちゃおもしろかったわー!となったかと言われれば……うーん……という感じであった。同じインタレスティングを得られる娯楽であれば、それは満足感が高い方が優先されるわけで、酒を飲みながらダラダラと観れるバラエティ以外では、映画や音楽、読書だけでも手一杯なのに、ドラマになんぞ手を出したらいくら時間があっても足りず、さらにそこまで満足感が得られないのであれば、率先して手を出すはずがない。

*3:NHKで放送された「新春TV放談2013」より

*4:監督が二人体勢だったりするのもあるが、誰が撮っても見た目はどれもこれも似たようなものばかり。そこへいくと岩井俊二は当時から画期的なことをしていたということになる