なぜYMOはスライのカバーをしたのか?

もう結構前の話になるが、NHKの『スコラ 坂本龍一 音楽の学校』という番組でYMOがスライ・&・ザ・ファミリー・ストーンの“Thank You For Talkin' To Me Africa”をカバーしていた。

ぼくはリアルタイムでYMOを聞いていた世代ではないし、CDもベストと『増殖』しか持ってないが、そんなぼくでも唐突に始まったこのカバーには度肝抜かれた。ボーカルレスだったが、ほぼ完コピというスタイルだったのでさらに驚いた。ある種のファンにとっては昇天モノの映像であることは間違いなく、実際Twitterでも数人「YMOのスライキター!」ってつぶやいてた人がいたくらいだ。

ただ、後で分かったことだが(だから今更書いてるんだけど)、元々この『スコラ』という番組は坂本龍一が監修した音楽の百科事典『コモンズ:スコラ』の映像版として制作されたようだ。スライのカバーもその『コモンズ:スコラ』の4巻に収録されている。

commmons: schola vol.5 Yukihiro Takahashi & Haruomi Hosono Selections: Drums & Bass

commmons: schola vol.5 Yukihiro Takahashi & Haruomi Hosono Selections: Drums & Bass

なぜカバーするに至ったかというと、YMO高橋幸宏細野晴臣がそれぞれプレイヤーとして影響を受けて来た楽曲を収録したCDを『コモンズ:スコラ』で作成した際、ビートルズとスライだけは許諾がとれず収録出来ないことが判明。ただドラムとベース、そしてグルーヴという観点からその二組を無視することは絶対に出来ないと判断した坂本龍一が、「ならYMOでカバーしちゃえばいんじゃね?」と発案したとか。番組ではボーカルレスだったが、CDではクリスタル・ケイをゲストに呼んで歌わせている。ちなみに同番組ではビートルズの“Hello Goodbye”も披露していたが、これが完コピだったのもそういう理由である。

そんな事情を鑑みてもこのスライのカバー、ものすごくかっこいい。youtubeにはネタなのか分からないが、「こんな黒人音楽の濃厚な匂いのしてくるファンクソウルバンドが日­本にもいたとは!ぜひバンド名を教えてください」なんてコメントが書いてあったくらいで、元々知ってはいたが、今まで以上に原曲を深く聞き込むキッカケになった。本人達も演奏していて気持ち良いのか、最近のライブでもクリスタル・ケイをゲストに呼んで演奏している。

ちなみにこれまた最近知ったんだけど“Thank You For Talkin' To Me Africa”は“Thank You (Falettinme Be Mice Elf Agin)”のアルバムバージョンなんだって!っていうか、これ有名な話!?またしても知らなかったのオレだけ!?ぶっちゃけなんで同じフレーズが出て来るんだろうって思ってたんだよ!「Thank You」って言葉は入ってるけど、タイトルだって違うじゃん!

それにしても、意図的にグルーヴを排除しようとしていたYMOが、生演奏にこだわり、スライのカバーをするとは非常に感慨深いものがある。もし彼らがこういう路線に行くんであれば大歓迎だなぁ。普通に音源聞きたいんだけど、『コモンズ:スコラ』高いんだよ……出してるのだって知らなかった人の方が多いんじゃないかなぁ。だからみんなあのカバーでビックリしたんだと思うけどね。あういぇ。

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