- 作者: 林壮一
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/09/14
- メディア: 単行本
- 購入: 3人 クリック: 12回
- この商品を含むブログ (17件) を見る
『マイノリティーの拳』はそんなボクシングの栄光と影を鋭くえぐった作品である、ノンフィクションであるから、ここに登場するボクサーの話は本当の話だ、対話式の文章ではなく、ボクサーの生い立ちから、チャンピオンになって堕ちていくまでを見事な構成と筆力で書いている、ボクシングを知らない様な人でも興味がわくように書かれているし、実際この本には読み手をぐいぐい引っ張って行くパワーがある、作者がアメリカに渡って10年間取材したものが詰まってるから、その選手の心情なども細かく書かれており、ボクシングで生きてる人すべての魂が宿っている様にも感じた、作者とこのボクサー達の信頼関係があってこその本だと思うが、“黒人ボクサーの栄光と影”という着眼点だけではなかなかここまでの作品にならないだろう「アメリカにはこういうボクサーがいる、この人達をどうにか世間に知らしめたい」という想いや、そのボクサーを好きになったからこその文章、これが飛び抜けてるので、そこに金の匂いや仕事という意識があまり感じないのもこの作品が勝利した要因のようにも思える。
何故黒人ボクサーが強く、何故黒人ボクサーだけが堕ちて行くのか?というのにすごく興味があったので、それがちゃんと書かれているのも素晴らしかった、つまりアメリカ社会の底辺にしがみついてる人種、生きて行く為に男たちはグローブをはめ、そしてその事しか知らない男たちは、いいように利用され、捨てられていく、そしてその後も生きる為に男達は戦い続けなければならない…もちろん心温まるエピソードも多数あるが、基本的にはすごく現実がある本だった、私はハッピーエンドが嫌いで、その理由として、「現実にハッピーエンドなんて片手で数えるくらいしかないから」なのだが、この「現実を突きつけられた感(バッドエンドではない)」はよほど念入りに取材し、自分の中で完璧に昇華して、文章にしないと出来ない芸当だろう、それ故にこの作品は刺さり、圧倒的な迫力に満ちている。
すこし重く、考えさせられるが、かなりの力作である、男ならば読まなくてはならない本だろう、栄光や金をその拳で掴んだと思ったら掴み損ねていた男たちの魂がここにある。