淀川長治の解説がまた見たい。

日曜洋画劇場 40周年記念 淀川長治の名画解説 [DVD]

日曜洋画劇場 40周年記念 淀川長治の名画解説 [DVD]

日曜洋画劇場 淀川長治の名画解説』鑑賞。もう単純に日曜洋画劇場の解説を集めたDVDだが、これがすごい!何がすごいって、やっぱりこれぞ評論家の仕事という事だよ!

一番びっくりしたのがゲッタウェイ』の解説!いやぁさすがだった。

私は『ゲッタウェイ』って大好きで、ペキンパー作品の中でも回数を見てるんですけど、あの映画って、犯罪を犯した悪人が、最後にメキシコに逃げて、ハッピーエンドになる映画だと認識してたんですよ、ですが、淀川さんはそう言わない、

『あれは最後悪人が逃げるのか?逃げたな、悪人が勝ったなという終わり方なんですが、よく見るとそうじゃないんですね、ハリウッドの映画だったら、最後ハッピーエンドになる時ね、2人の顔、真っ正面から映すでしょう?2人がニコニコニコニコ笑いながら、真っ正面から撮る、「ゲッタウェイ」はそうじゃないんですね、2人が去って行くところ、後ろからず〜っと遠くに行くまで撮ってる、これでこの2人はこの先やられるなというのを感じさせるんですね。』

なるほど!と、確かにアメリカ映画のオマージュを混ぜ込んだゴダールの『はなればなれに』のラストもそう。あれは悪人だけど、映画のラストの方では主役達の正面のカットだ。こちらはもちろんハッピーエンドである。

映画の黒澤、マンガの手塚治虫、アニメの宮崎駿、ゲームの宮本茂というように、日本にはその分野の最高峰がいる、この人達は世界的にも評価が高く、世界レベルで見ても最高峰だ。

映画評論家では誰か?と聞かれたらやっぱり淀川長治さんになるのだろう。意外と思われるかもしれないが、私は映画評論家の本をほとんど持っていない、おすぎさんの毒舌がおもしろいから、それを2冊持っているくらい、そもそもおすぎさんはTVでしゃべくるのが得意なのであって、本で読んでもあの感じが出ない(笑)そんな中、持ってる数と図書館などで読んだ数が圧倒的に多いのが、淀川さんの本、多分20冊近くは読んでいると思う。

この人の一般的なイメージは『映画を誉める人』なのかもしれない、実際親父から聞いた話だが、『映画を誉め過ぎだ』というクレームをジャーナリストが誰かがしたら、ファンの人から『私の先生をけなされてるようで非常に不愉快だ』という手紙がものすごく来たというエピソードもあるくらい、淀川さんはいろんな人に愛されている。

もちろん淀川さんは『映画を誉める人』だが、それはあくまで、TVの中だけ、この人は恐ろしく毒舌なのである。『おしゃべりな映画館』という、おすぎさんとの対談本でその面を強く出しており、あのおすぎさんがフォローを入れまくるくらい、様々な映画、役者、監督をけなしまくっている。いろんな本を読んだが、淀川さんの本音が書いてあるのはこの本だけだと確信していて、特に『シンドラーのリスト』をボロカスに言うくだりは、私が思ってる事を代弁してくれているようでおもしろい。私はこの本が大好きで、図書館から毎週の様に借りて読んでた、これ文庫化してくれないかなぁ。

なんだけども、淀川さんが素晴しいのは、誉める所はしっかり誉めるという所。淀川さんはすごくゴダールが嫌いで、ものすごくゴダールを叩くが、誉める所はしっかり誉める。特に『パッション』での評論が素晴しかった。嫌いと言ってのけたうえで、めちゃくちゃに誉める。

私は映画を批判している批評を読んでもあまり面白いと思えない。それは人が誰かの悪口を言っているのを聞いていて嫌な気分になるのと一緒で、読んでても、嫌な気分にはならないけども、気持ちがいいもんじゃない。淀川さんのは違う、読み終わる頃には、思わず『う〜ん、素晴しい』と唸る事しか出来なくなっている。

世間で原作を削りに削ったと酷評された『バリーリンドン』、特にポーリン・ケールは『美術館のスライドショーに3時間居る方がマシ』とバッサリ切り捨てるが、淀川さんは『サッカレーを3時間で学べるのだから、映画というのはありがたい表現だ』と言ってのける。北野武へよせた文なんかは、映画評論を越え、ある種のポエムのように美しい。こういう映画評論家はこの先も現れないと思っている。何かのサイトで“生きたニューシネマパラダイス”という称号を与えてる人がいたが、その通りだ。映画評論家=淀川長治というイメージもあるかもしれないし、今更この人の事を語るのは恥ずかしいというのもある。でも私はそういう事抜きに、この人の映画批評が単純に好きなのだ。

ものすごい事を書かせてもらえば、日本の映画評論家は何がいいたいのかわからない文章が多い、今、ここで、その人達の名前を書いてもいいくらいだが(笑)

なんか、すべてを曖昧にしてしまったり、抽象的に書いてたり、誉めてんだか、けなしてんだか分からん。オレってなんかかっこいい文章を書くだろ?みたいなヤツもいるじゃないっすか(笑)まぁいろんなしがらみもあるんだろうが、誉めててもよくわからん人が多いのである。これは『ロッキン・オン・ジャパン』にも言える事だ、何が良くて、何が悪いのか、とにかく分からんのだ。私が映画批評の本や雑誌をあまり持ってないというのも、こういうのがあるからだ。

とにかく淀川さんの映画評論はダントツに分かりやすくて、さらに感心する物ばかり、やはり、映画評論家の最高峰であり続ける人なのだ。