適者生存!862人のサバイバル!


12日夜
楳図かずおの代表作である『漂流教室』を読んだ。『ロング・ラブレター』などは見ていたのだが、基本的に長いマンガというのを読まない人なので、スルーしていたが、祖父江慎のブックデザインが秀逸でこれでなら揃えたいと思って買ってみた。

楳図パーフェクションと銘打たれた復刻版の『漂流教室』は全三巻。ブックデザインのコンセプトは“バイブル-分断された絆”一冊のページ数はなんと700ページを越えるが、三巻合わせても12センチというまさに聖書並みの納まり方。分断された絆の通り本を閉じると開く所に絵が書かれており、三巻合わせると主人公達の一枚の絵になるという凝りようで、この辺も祖父江慎ならではの装丁といったところ。

さて『漂流教室』だが、かなり歪なマンガだと思う。ストーリーを語るという部分では破綻もしているし(母親が何かを届けたりするところなんかは非常にバランスを欠いてると思う)、何かが起こってるという事を全てセリフで説明してしまっているし、知識と力と行動力が小学生とは思えないほどしっかりしているし、後半の展開はかなり強引だなぁとも思う。

だが、そのバランスを欠いた部分も含めて『漂流教室』は素晴らしいマンガだ。「こういうのが描きたいんだ!」という圧倒的な主張を感じる。人間の醜さ、愚かさ、薄汚さが2241ページに渡って繰り広げられ、言っても『漂流教室』にはそれしかない。圧倒的な絶望感、終末感、阿鼻叫喚の地獄曼荼羅と呼べるような、読む者を地獄にたたき落とすような展開。しかもそれが驚異的なスピードで次から次へとやって来て気が抜けない。

明確なソースがないので勝手な感想を書くと、実は人間のエゴや醜さ、悪の側面が全開になった作品というのはたいがい聖書が下敷きになっている。三浦綾子の『氷点』しかり、スティーブン・キングの『ミスト』や秋山ジョージの『銭ゲバ』なんかもそうなのだろうが、『漂流教室』の場合、砂漠化してしまった地球にすっ飛んで行くのが全員子供なので、人間は生まれながらにして悪であるという概念が根付いている聖書的な世界観に一番近い。『漂流教室』には聖書を連想させるシーンがいくつもある。十字架にかけられた子供が脇腹からヤリを突かれるというシーンもあるし、人体破壊もあって、血みどろだし、女を巡って殺し合いをしたり、贖罪を求める子がいたり、洪水が襲って来たり、神のようなものを崇めたりするシーンもあったりする(旧約聖書の中で神以外のモノを崇めたヤツらは神の裁きがくだる事になっている)

さらにその砂漠化した地球でサバイバルをするというのは、適者生存と運者生存を彷彿とさせ、主人公達が死の淵から生還する通過儀礼の要素もある。

このようにストーリーは歪と書いたが、『漂流教室』はかなり多面体な魅力があるのも事実だ。860人もの小学生のサバイバルを主人公のクラスから描いた事で、散漫にならずに済み、各キャラクターへの感情移入もしやすくなった。何が起きているのかという事をまったく説明せず、徹底的に主人公達に試練を与え続ける展開も見事だと思う。

漂流教室』は人間とはとにかく薄汚いし、醜いし、欲のかたまりだし、ウソもつくし、人をダマすし、簡単に人を殺すようなクソみたいな生き物だけれど、それでも最終的に神は助けちゃくれない、どんな事があっても他者となんとかせにゃならんというマンガ。ぼくのような人間にはバイブルになり得るような奇蹟の傑作でした。喰わず嫌いしてるなら絶対におすすめ。『氷点』と並んで一家に一冊レベルじゃい。

13日朝
8時から仕事。『バットマン:ロング・ハロウィーン』を休憩中にもう一度読んだのだが、いやぁホントにアメコミは慣れるとおもしろい。『漂流教室』を読んだ時にも思ったのだけれど、やっぱり日本のマンガとアメリカのコミックは文法がまるで違う。同じウイスキーなのに、バーボンとスコッチくらいの差がある。まったく別物なのだ。日本のマンガは手塚治虫が『新宝島』で作り上げたような動きの文法で、手塚治虫は初期にモブシーンなんかも頻繁に出してたくらい、やっぱり映画的な表現である。そこへ行くとアメコミは文学的な読ませ方をするような印象があるなぁ。『ロング・ハロウィーン』も動きのあるコミックだけど、やっぱり一つのコマに含まれる情報量が日本のマンガよりも多い。だからハードボイルドとかミステリーという題材がぴったりくるんだと思う。英語がわかるともっとおもしろいと感じるんだろうけど、邦訳されたものはおもしろいから邦訳されるんであって、基本的に外れはないんだろうなぁ。

13日昼
帰ったら昼寝してしまった。最近、中途半端に昼寝してしまうんで、夜眠れなくなっちゃうのよねぇ。

13日夜
カレーを喰らって、不覚にもネプリーグのスペシャルを見てしまった。堀北真希がかわいかった、あういぇ。

漂流教室 1 (ビッグコミックススペシャル)

漂流教室 1 (ビッグコミックススペシャル)

漂流教室 2 (ビッグコミックススペシャル)

漂流教室 2 (ビッグコミックススペシャル)

漂流教室 3 (ビッグコミックススペシャル)

漂流教室 3 (ビッグコミックススペシャル)