半ズボン戦争

飯を早めに喰らい、岸川真さんの新刊『半ズボン戦争』を読み耽る。おもしろい!さすがの1冊!参った!

半ズボン戦争

半ズボン戦争

岸川真さんという人の本はとてもギリギリのラインをついてくる。もう一歩だけ踏み込むと危険な領域というか、陳腐になりかねなかったり、説教臭く感じてしまうギリギリのライン。それを決して嘘っぽく感じさせないのは、岸川真という作家が“岸川真”そのものを素材に、本当にあった事全てをむき出しに描いていくからだろう。岸川真さんの文体は確かに柔らかいが、直球勝負だ。そこには硬質な魂が宿っている。

半ズボン戦争』は『蒸発父さん』と同じように、主人公はキシカワシン。そう岸川真さんの自伝的な小説。青年からさらにさかのぼり、小学生時代が舞台。友人の輪に入りたいが為に些細な嘘を付くのだが、その嘘がきっかけで『人間狩り』という壮絶なイジメに遭うというもの。ガンダムブルース・リー松田聖子ひょうきん族ジャッキー・チェンというアイテムを使い時代感を演出。状況の説明の仕方、情景、心象の描写力は『蒸発父さん』よりもパワーアップしており、現代と小学生の時代を交錯させる事で緩急織り交ぜる事にも成功している。

これで、いじめをテーマにしただけであれば、野島伸司の作品を観た時のように「けっ!」とツバを吐いているところだが、『半ズボン戦争』では、イジメだけで終わらないのが素晴らしい。そこから、今度は先生によって徹底的に管理された教室が作られる。いじめが遭った時よりもギスギスする生徒たち、さらに少年キシカワの暴力事件、そしてついにいじめられた者がいじめる側に立たされる。。。。。

物語はこれで終わらない。かつていじめて来た天敵との再会。大人になり、子供を持つ親となった彼らに抱く複雑な想い。そう、岸川真という作家はやはり一筋縄ではいかない。大人の介入が助けになる時もあれば、ならない時もあるという事を描き、大人に管理されてしまった教室の息苦しさも被害者の立場からしっかりと描き、何よりもキシカワというキャラクターのダークサイドまでも深くえぐり出している。こういう部分も描くからこそ、前半のいじめの描写が効いて来る。人の痛みを気にしながらも、自分は弱い人間である事をさらけ出しているからこその作品になってるんじゃないだろうか。しかも『蒸発父さん』の時よりもかなり自分を俯瞰視してるような描写が多かった事にも驚いた。読ませる側の事を考えてる部分と自分をむき出しにするバランスがとにかく絶妙だ。

何よりもぼくが関心したのは、ラスト。時間軸のずらしが、ラストの“再会”に深い感動を呼ぶ。「たかをくくろうか」と歌うくだりで涙してしまった。

半ズボン戦争』は読んでて辛い部分もあるし、重いテーマにも踏み込んでるし、さらに人生になんて答えはないんだとばかりに、現代の主人公のキシカワと同じように居心地の悪いところに放り出される。だが、ぼくは思う。人間が生きるとは居心地の悪いものなのだと。答えの無いものなのだと。そういう部分も含め『半ズボン戦争』は素晴らしい。もちろん『蒸発父さん』と併せて読む事をおすすめする。

http://d.hatena.ne.jp/kshinshin/
↑こちら岸川真さんのはてなダイアリーです。あういぇ。