『コインロッカー・ベイビーズ』を読んだ。

- 作者: 村上龍
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2009/07/15
- メディア: 文庫
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まったく改行をせずに、キャラクターのセリフやらイメージやら見ている風景などがギュウギュウに押し詰められているので、それに慣れることなく、一度挫折していたのだが、去年発売された新装版の装丁と文字の大きさと金原ひとみの解説に惹かれて、そちらを買い、一気に読んだ。
外向的だが、暴力への衝動が人一倍強いキクと、人の心を掴んで離さない歌声を持つ内向的なハシはコインロッカーで生まれた孤児。小さい時に聞かされた心臓音と本当の母親に会いに行くため、ハシは内緒で上京する。ハシを失ってしまったキクもガゼルという男に教わった「ダチュラ」という言葉と共に上京するのだが、そこでキクを待ち受けていたものとは……
それにしても、すさまじい設定の小説である。まず「まともな人間の方がこの世界では狂ってる」と言わんばかりに、まともな人間が一人も登場しない。しかもコーエン兄弟の如く、嘔吐がやたらと登場する。生理的に嫌悪感を抱かせるイメージも全体的に散りばめられていて、しかも痛々しい描写が満載だ。ヌルヌルという言葉が結構出て来るが、それこそ『コインロッカー・ベイビーズ』は『スターウォーズ』のようなピカピカな文章ではなく、『ブレードランナー』のように濡れて湿っている。
正直、最初の120ページくらいまで、これと言った展開はなく、くじけそうになるが、それを過ぎてるとトンでもないスピードで読み終わる。特に変態とキチガイが集まっているウイルス汚染地域「薬島」の退廃的な描写がすこぶる素晴らしく、『ブレードランナー』の2019年:ロサンゼルスに引けをとっていない。ワニをペットにしているアネモネという少女や、ハシをレコードデビューさせようとするホモなど、脇役もぶっ飛んでいて、カーチェイスがあるわ、殺人サメとのバトルはあるわ、公開処刑があるわ、とびっきりのバイオレンスはあるわで、狂った娯楽作品としてサービス満点。映像を頭に描かせる文章は特筆すべきで、その絵はタルコフスキーとリンチを彷彿とさせる。
上記の作品群が全部好きという方は読んで間違いないだろうが、それでも世界観も含めて読む人を選ぶだろう。ただ中毒性の強い作品であることは間違いないし、心臓の音/コインロッカー/ダチュラが生きる目的/現代社会/破壊だとすれば、20年以上経った今でも当時と同じ衝撃を持って迎えられるはずである。
後半の『ファイト・クラブ』的な展開と、ラストの含みを持たせた「破壊」描写に打ち震えた。この読後感はそうあるもんじゃない、傑作。