名刺代わりがすでに完成系/出口陽『Daybreak』

出口陽の『Daybreak』を聴いた。

SKEを微妙に箱推ししていたので“ゆるゆる/ぐだぐだカラオケ大会で「ルビーの指環」を歌った娘”程度には認識していたものの、主力メンバーがガッツり卒業してからSKE自体から離れており、出口陽自身が卒業していたとかその辺の話はまったく知らなかった。ところが、去年の冬くらいに友人ふたりがこのアルバムの制作に関わっていることを知り、それで本人からおすすめされたのでわざわざ購入して聴いた。よく考えたら前田敦子板野友美以外、48G卒業生の音源というのは聴いたことなかったし、ソロで勝負するからには何かしら光るものがあったのだろうと思ったから興味はあった。にしても、今度何かおごってもらおう。

とはいえ、前田敦子はともかく、わりと板野友美にしても体たらくだし、秋元康の息がかかってないところで有象無象の一枚だろうとそこそこナメてかかってたんだけど、良い意味で裏切られた。予想以上だった。

まず、音源うんぬん以前に出口陽のボーカリゼーションがとにかくすばらしい。

やや鼻にかかりながらもロックを歌える芯の強い歌声の持ち主である。この声にうまいことディレクションが乗っかれば曲によっては大化けするわけだが、それが見事にハマっている。いわゆる出口陽という歌い手さんのアルバムになっていることには感心した。

楽曲に関してもワルツになったり、時計のSEが入っていたり、カットアウト風エンディングとビートルズチックだったり、スマパンのようなストリングスアレンジがあったりして楽しい。まぁこれはビートルズスマパンを意識してるのではなく、こういうことがもはやスタンダードになっているということなのだろう。メロに関してはそこまで突き抜けず、エモっぽいといってはそれまでだが、ギターの音が気持ち良く鳴っており、それで繰り返し聴いてしまう。そういう部分には興味ない人にとってはやや厳しいところもあるかもしれないが。

あと、驚いたのは歌詞だ。良い意味で散文的であり、コラージュ感覚で書かれたものだが、頭の中にかっこたるイメージがあって、そのイメージからことばをひとつひとつ紡いでいってるという印象があり、出口陽の声の質もあいまってちゃんとフレーズフレーズが耳に飛び込んでくる。「この痛みが胸にある限り 生きてると思えるよ」とか「宗教みたいな恋」などはキラーラインだなと思った。

世界観を設定したいのか、一曲目に1分20秒のインストがあり、AKBでいうところの「overture」みたいなものだろうが、それが気になるくらいで全体的には良いアルバムだった。出口陽というアーティストの名刺代わりでありながら完成系。あまり振り幅を広くせず、このラインでいくならこれからも楽しみである。