『真夜中の弥次さん喜多さん』を今更観た。

9日夜続き。
しりあがり寿の『真夜中の弥次さん喜多さん』を読む。物語に必要ないシュールなギャグが、どんどんぶち込まれ、基本的に意味わかんねー状態に陥るが、その逸脱したシュールさが全面に押し出される事で、その向こうには必ず現実があるという事が随時提示されていく。なのでシュールだけに逃げてないという点において、フォロワーであるうすた京介とは一線を画す。物事は全て紙一重だというメッセージがあり、マンガの中で現実(リアル)という言葉と死という言葉が連発されて行く。しかも喜多さんがヤク中であるという設定の為、どんなにシュールな場面を持って来ても、幻覚という事で説明が一応付く為、時代劇版の『ラスベガスをやっつけろ』という感じ。

クドカンの『真夜中の弥次さん喜多さん』を観た人の感想で多かったのが「やり過ぎ!」「暴走し過ぎ!」「意味がまったく分からない」だったが、恐らく、この手の感想を言った人は原作を読んでない人なのだろう。

「よくクドカンの『弥次喜多』はかなり暴走してるって言われてるけど、アレは原作がそうで、ぶっちゃけ原作にかなり忠実に作られてるうえに、台詞回しがクドカンっぽくて、すごく良く出来てると思う。私は5回以上観てる」

というのは私の彼女の弁。

その後、しりあがり寿の『真夜中の水戸黄門』を読む。『弥次喜多』の弥次さんと喜多さんが、そのまま助さん格さんになり、諸国漫遊するスピンオフ的な作品。この『真夜中の水戸黄門』はマジで傑作。なるほど、しりあがり寿が天才だと言われる所以がちょっと分かった。シュールさはあるんだけど、ドリフ的な要素も含んでて、水戸黄門という大ボケに助さんと格さんが的確につっこんで行くという構図が分かりやすく、さらに破壊的な描写や、助さんと格さんがまったく役に立たないという点で、水戸黄門のお決まりもギャグにしてしまう鋭さ。私の彼女もしりあがり寿のマンガではこれが一番好きだと言ってた。3回も読んでしまう。

10日昼
ちゃーしゅー屋武蔵にてからし味噌らーめんを喰らう。麺が無茶苦茶上手い。鶏ガラ主体のスープに味噌なのだが、ちょっとだけ味噌が弱い気がしないでもない。近くのツタヤで彼女とあーだこーだマンガの話をする。それにしても、オレの彼女はマンガにやたら詳しい。改めて思い知らされる。

彼女は用事があったので帰って、その後、クドカン初監督作の『真夜中の弥次さん喜多さん』をようやく鑑賞。今まで何故か観てなかった。『池袋ウエストゲートパーク』も『木更津キャッツアイ』もDVD-BOX持ってるのに、何故観なかったんだ!?

映画はしりあがり寿の世界観を完璧に映像化する事に成功している。しかも映画にする事に意味があるような表現。例えば、これみよがしなジャンプカットやモノクロの映像なども、元々の原作が持つ世界観にピッタリとマッチしている。人面疽や涅槃宿、エクスカリバーやキノコのBARなど、「どうやって映像化するんだろう?」という部分もCGを使い、きっちりと映像化していて好感が持てる。映画にする事で、一本芯の通った作品になるかと思ったが、監督クドカンが取った手法は、ひっちゃかめっちゃかさも含めて原作通りにするという事だった。それにしてもクドカンがノリに乗ってた頃だから実写化出来たのだと思うが、なぜ、しりあがり寿の『弥次喜多』を実写化しようと思ったのだろう。普通に考えて企画が通らない気はするのだが、それだけが謎だ。

さて、映画にした事で魅力が増えた事がある、それはずばり音楽だ。ZAZENBOYSが担当しているが、これが見事に作品とマッチしている。映画用に作られたサントラだけでなく、既製の楽曲である『半透明少女関係』や『TANUKI』『Kimochi』なども、ちゃんと場面に合わせて使われている。エンディング曲は映画に合わせて書き下ろしたもんだが、これが非常にかっこよく、歌詞も作品に出て来る言葉を使っていて、非常に凝っている。それとは別にグループ魂の宮澤タクが作った『東海道で行こう』がステッペンウルフの『ワイルドで行こう』のパロディになっていたりして、音楽だけでも楽しめる作品に仕上がっている。

原作とは違うキャラに設定されてしまった弥次さんだが、マンガから抜け出して来たような中村七之助がとにかくはまり役。他のゲスト陣はぶっちゃけどうでもいいし、大人計画のメンバーに固執してしまった部分も否めないが、それでも無茶苦茶な世界に負けないように、役者もどんどんぶち込んで怪演を繰り広げる。

という事で、原作モノに定評ありのクドカン作品だが、『弥次喜多』も同じようにちゃんと原作に敬意をはらった作品になっていた。先ほども書いたが、『ラスベガスをやっつけろ』の日本版という感じで、ビールでも飲みながら観るのが一番だろう。

10日夜
喧嘩商売』を一気に13巻まで読んだが、やっぱりギャグが少なく、木多康昭の熱狂的なファンとして、もっと暴走してほしいというのがある。まぁ、暴走したら、マンガ書けなくなっちゃうからいいんだけど。

11日朝
くりぃむのANNの79回を聞く。素人の漫才大会A-1グランプリの回だが、非常におもしろかった。

その後、昼まで『猫目小僧』を読む。楳図かずおパーフェクトコレクションのヤツで、紆余曲折あった連載を2冊にまとめたもの。戦後のアメコミ風のブックデザインになってて、すごくかっこいいなぁと思っていたのだが、デザインした人は祖父江慎という人らしく、この人、ブックデザイン界ではものすごく有名で、私の彼女が初めて家に来た時に松本大洋の『GOGO!モンスター』と糸井重里監修の『言いまつがい』をみて「ああ、この本って祖父江慎さんデザインなんですよぉ、私この人のデザインがすごく好きで、ジャケ買いじゃないけど、つい買ってしまうんですよねぇ」と言ってた。確かにそれはうなづける。かっこいいデザインだ。ちなみに『真夜中の水戸黄門』もブックデザインは祖父江慎である。

ブックデザインも秀逸ながら、『猫目小僧』を読むと、ホントに昔のマンガは濃密なんだなぁと思う。それにやっぱり楳図かずおって怖いっすよ。この人のマンガは怖い。視覚的に怖いのと人間の怖さが同居している。手塚治虫もそうなんだけど、天才と呼ばれる人はどっか屈折してる節があって、だからこそ作品がおもしろいんだけど、楳図かずおもご他聞に漏れず、やっぱりどっか屈折してるんだと思うなぁ、感覚が違うと言うか。

11日昼
ジェネラル・ルージュの凱旋』を観た。すげぇよかった、感想は後ほど。

真夜中の水戸黄門 (ビームコミックス)

真夜中の水戸黄門 (ビームコミックス)

合本 真夜中の弥次さん喜多さん

合本 真夜中の弥次さん喜多さん

猫目小僧 1 (ビッグコミックススペシャル)

猫目小僧 1 (ビッグコミックススペシャル)